静電気から雲海まで創り出す、霧のエキスパートがその可能性を追求する
「霧のいけうち」を標榜し、スプレーノズルから発生させる霧を通して工場やオフィス内のさまざまな困りごとを解決してきた。その機能は「洗う」「冷やす」「加湿する」の3つに大別できる、と住田氏は言う。
例えば「加湿する」。電機・電子部品を製造する工場や印刷工場で大敵となる静電気を抑えるには湿度が欠かせない。そのため工場内を霧で加湿するのだが、機械に水滴が付けば故障の原因となり、床が濡れれば滑ってけがを引き起こす。そこで1979年に世界で初めて開発に成功したのが「ドライフォグ」発生装置だ。ドライフォグとは、物体に当たると弾かれてしまうくらいに細かい水滴のことで、粒径にして1000分の7.5ミリほど。ノズルから発生した細かい水滴どうしをぶつけることでさらに細かく破砕するアイデアでドライフォグ化を可能にした。
次に「冷やす」。今でこそ猛暑対策として屋外でのミストシャワーは浸透しつつあるが、同社は大阪で2007年に開かれた世界陸上競技選手権大会ですでに実用化している。涼しさを感じるのは、体に付いた水分が蒸発する際に周囲の熱を奪う気化熱の原理から。そのためには体に付着しながらもすぐに蒸発する粒径でなければならない。同社ではそれを1000分の10~30ミリと定め、商品化した。最近ではこのミストに送風装置を組み合わせた「ミスト冷房」の導入事例も増えている。「電気を使うのはポンプとファンだけなので、工場全体を空調で冷やすより大幅にCO2の排出を削減できる点が注目されている」という。
2年前には、広い庭園を持つ結婚式場の雲海を作る案件を手掛けたが、「霧」に強い同社の技術力を見込んでのことだった。水粒子が細かいほど、さらに水粒子が多いほど霧は濃くなる。そこで人が通る道には水滴をやや少なめに発生するノズルを、雲海を演出したいエリアには粒径の細かい水滴を大量に発生させるノズルを使うことで幻想的な景観を演出した。
最近開発したのは「噴霧水耕システム」。野菜の根っこに養分を含んだ霧を直接吹きかけて野菜の育成を促す手法だ。「土壌に埋もれていない根っこは養分への飢餓感が強く、霧の養分をどん欲に吸収しようとして甘い野菜ができあがる」のだという。
創業から70年近くが経ち、スプレーノズルの製品点数は5万点にまで増えた。霧の持つ可能性はまだまだとどまるところを知らない。
(取材・文/山口裕史)