ものづくり

義肢装具業界のスタンダードを圧倒的に超えていく

2023.01.23

「この会社を見ずに義肢装具業界を知ったつもりになるな」、そう言わしめる企業がある。創業75年の義肢・装具メーカー、川村義肢株式会社である。抜きん出ているのは圧倒的な生産スピード。業界の一般的な生産期間(1~2週間)を徹底した創意工夫で3日に縮めた。

義肢とは失った四肢の外見や機能を補う人工的な手足。戦争のない日本の社会的背景や医療技術の高度化などで手足を切断するケースは減りつつあるものの、病気や事故などで今なお一定数の需要がある。一方、装具とは治療や症状の軽減のために身体に装着する器具のことで、高齢化に伴って需要が増えている。いずれも医療現場で必要の有無が判断されメーカーが製作する。

今、日本の医療は患者の入院日数を減らし一日でも早く帰宅を促す流れになっている。その動きが義肢装具業界にも影響を与えた。「患者さんが1週間で退院する中、義肢装具の製作に何週間もかけるわけにはいかない 」と代表取締役の川村氏。「患者さんのリハビリが遅れ、医療現場の望むスピード感に応えられないのは致命的」と、取り組んだのが生産工程の短縮化である。

代表取締役 川村 慶氏

同社では工程の手順を見直し、デジタル化を進めた。たとえばこれまでは義肢装具士が病院を訪問し患者の身体のサイズを採寸していたものを、スマートフォンで撮影した画像を病院から送ってもらうことで採寸できる仕組みをつくった。また、アナログな手作業でパーツを裁断していたが、病院から送られてくる患者のデータをバーコードで読み取り、自動裁断ラインですばやくカットする仕組みを導入した。

さらに生産工程の省力化にも取り組んだ。体幹を固定するフレームコルセットのネジや金属などのパーツをモジュール化し、あらかじめ病院で仮装着してもらった後に義肢装具士がオーダーメイドする方法を導入して工程を短縮。また、何工程もかけていた作業のアクション数を減らすため、オリジナルの治具も開発した。こうした一つひとつの積み重ねが冒頭の生産期間3日間を実現させた。「仕組みを変えていく力の源にあるのは、できるかできないかではなく、やるかやらないか」と川村氏。

とはいえ、義肢装具はデジタル化と機械化を行えば簡単に量産できるという製品ではない。人それぞれの体型に合わせるきめ細やかなものづくりの基礎があるからこそ技術の高度化が活きてくる。そのため、社内の製造スタッフたちのスキルアップにも力を入れている。そのひとつが製造工程の映像マニュアル化。多種多様な製品と工程を細分化し、作業を動画にしてクラウドに保存。社員は皆、その動画を工場内のタブレットで確認できる。「映像にすることで作業工程の理解が一段と早まる。労働時間が短くなる中でスキルを維持していくには工夫が必要」と川村氏。スマートフォンからもその動画にアクセスできるので、知りたい時にいつでも業務に触れられる環境を整えた。

また、同社は「スキルの力量表」を活用。社員名とスキル項目をマトリックスにして、誰が何の作業をどのレベルまでできるのかを可視化した。そうすることで個人と組織全体の力量が一目瞭然。社員の目標管理ツールとして使うとともに、組織に欠けたスキルを見ることで「なんとなく」ではない、根拠に基づいた適切な人材配置と採用を行っている。

こうしてみるといかにも効率優先の企業といった印象を受けるが、実は同社の雰囲気は人間味にあふれてあたたかい。その一面は「私たちが提供しているのは義肢装具ではなく、お客様の“あきらめなくてよかった!”という言葉」に表れている。病気や事故で身体の一部に支障をきたしたからといって、やりたいことを諦める必要はない。旅行に行くことも、おしゃれをすることもできる。アスリートたちは記録に挑戦し続けることもできる。

そのために、同社の社員たちが何より大切にしているのはお客様とのコミュニケーション。問いかけるのはまず、「何がしたいですか?」と「あなたの困っていることを教えてください」だ。手足や機能を失う前とできるだけ同じ状態を提供する。そのためには話を聞く時間も手間も惜しまない。その姿勢はいつの時代も変わらない。工程のデジタル化や省力化はお客様の「あきらめなくてよかった」を追求した先に生まれたものだ。

 「お客様の思いに添えば添うほど、短くて確実なオペレーションが必要になる。デジタル化はその一手段でしかない」と川村氏が言うように、同社の変革は“変わらないところ”を守り続けたうえに成り立っている。

(取材・文/荒木さと子 写真/福永浩二)

川村義肢株式会社

代表取締役

川村 慶氏

https://www.kawamura-gishi.co.jp

事業内容/義肢・装具の製造・販売