「会社を良くするため」新しい風を吹き込む相棒
大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする
社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。
【 vol.20 】大栗紙工株式会社~「会社を良くするため」新しい風を吹き込む相棒~
大手文具メーカーのOEMをはじめとした、無線綴じノートを主体に製造する大栗紙工株式会社。
同社代表の大栗康英氏は大学を卒業後、大手文具メーカーに勤め、結婚を機に同社へ入社した。1996年に社長へ就任したが、程なくして得意先の工場が移転したことにより、受注が大幅に落ち込む。「社長として何としてでも社員を食べさせないといけない」。この想いで大栗氏は歯を食いしばりさまざまな仕事を取りに行ったが、単価が厳しい仕事や紙を裁断するだけの仕事ばかり。時には父である先代から反発を受けることもあったが必死だった。
会社を無事維持することができ、その後も得意先でヒット商品が続いたことから受注は順調に伸びたが、自社の将来を考える機会も増えた。時代の変化に対し柔軟に応じられる強い会社となるためには人材が大切との想いから、新しい人材を採用しようと5年前に合同就職説明会へ参加。採用人数を決めていたものの、その枠を超えても欲しい人材が現れる。それが今回の相棒である髙光学氏だ。
髙光氏は大学で品質管理や生産管理を学んだ後、接客業や営業に就いていたが、大学での学びを活かしたいことと製造業への憧れから同社のブースへと足を運んだ。入社後、髙光氏が機械オペレーターとして製造現場で経験を積んでいた頃、当時の専務の退職により大栗氏が従来の業務に加え事務面も引き継ぐこととなった。
業務が多く悪戦苦闘する大栗氏のため、プログラミングの知見を持つ髙光氏は事務処理ソフトを作成、その結果数日必要だった処理が2時間で終了可能となり、大栗氏は経営者としての時間を確保することができた。
生産管理に異動した入社2年後から現在まで、生産性向上・品質向上のための新設備やシステムの導入などにも積極的に努めている。ときには現場経験の長い社員から厳しい意見をもらうときもあるが、諦めずに設備メーカーから何度も話を聞き、論理的に検証しながら紙や作業工程への悪影響が無いことを明確化し、現場社員へ何度も説明することで納得してもらえるという。
製造現場では職人一筋という人は多い。一方、髙光氏は経験が浅いからこそ既成概念にとらわれずに見える課題があり、解決方法を提案できるという。そして、ただ自分の考えを一方的に伝えるのではなく、現場や会社全体がいかに良くなるかを、数字も使いながら対話することを大切にしている。
短い社歴にかかわらず、会社をより良くするために新しい風を吹き込む髙光氏は、大栗氏にとって大変頼もしい存在だ。特に現在進めている社屋のリニューアルプロジェクトは、工場の稼働を止めることなく進めていく過程で困難も予想されたが、髙光氏らが中心となり現場社員やプロジェクトに関わる様々な人の協力を得ることで滞りなく進んでいる。一方で髙光氏にとっても、失敗を恐れず挑戦できる環境を与えてくれる大栗氏をありがたく感じている。
2020年2月には、初の自社商品であるノート「mahora」を発売。「mahora」=「まほら」は「住み心地のよいところ」という意味だ。これからも大栗紙工で働く人、そして製品を使う人、みんなにとって心地のよい状態をめざし続ける。「体壊さんように、これからも頑張ってほしい」、そう言いながら髙光氏を見つめる大栗氏の目は温かみに満ちていた。
(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)