ものづくり

《講演録》副社長が語る!注目の企業マザーハウスの躍進の裏側にある経営哲学とは

2021.04.13

 
―― 理念を反映した製品づくりで、会社の価値を意識づけた

「Road to 10」の2~3年目になると売上げは顕著に伸びました。一方で、みんなが数字を重視している状況に危機感を覚えたんです。目先の利益ではなく、改めて社会に対する当社の価値を意識してもらうことが必要だと考えました。

マイノリティの可能性を拡げるために僕たちはビジネスを成長させているのだということの証として、乳がん患者さんのためのバッグ作りを行いました。

商品企画担当だけでなく、工場、ロジスティックスやカスタマーセンターの全員が触れることになる商品に、会社の理念を体現させたんです。半分は社内向けマーケティングとして行ったので売れなくてもいいと思っていたのですが、結果として売上げは数千万円と大ヒットしました。

 
―― 経営者だからこそ意識的に視点の入れ替えを

会社の成長は経営者の成長なくしてはありえません。14年間経営者として邁進してきた今になっても自分の至らなさに気づいたり、自分のいい点に気づかされたりする瞬間は多々あります。

僕がとてもラッキーだと思っていて、かつこの会社の強みだと思っているのは、山口と僕の対極性です。自分とは全く価値観の異なる山口とぶつかることで自分が何者であるのかが段々とわかってきました。

対極にあるもの、マクロとミクロ、虫眼鏡と双眼鏡の視点を行ったり来たりすることで見えてくるものがあります。目の前のお客様に集中する瞬間も大事ですが、資本主義とは何かについて考えてみたり、あるいは自分の業界の外に目を向けてみたりすることで、ビジネスのヒントやチャンスが見つかることがあります。

 

 
―― コロナ禍で気づかされた3つのこと

今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、当社も2020年4・5月の店舗の売上げはほぼゼロだったのですが、実はそんなにしんどくはありませんでした。というのも2011年の東日本大震災のときに売上げ8割減を経験していたからです。

経営者としての経験値を積んできたからこそ、コロナの影響が大きくなる前の2020年2月にはすでに手を打って、向こう1年半分くらいの資金を調達したんです。コロナ禍で改めて気づかされた3つのことをお話して今回の講演を終わりにしたいと思います。

[1]安心安全の確保
まずは従業員の安心安全の確保です。2月の時点で十分な資金を確保して、11ヵ国のマネジメント全員に資金は十分にあるから雇用や賃金をカットすることは絶対にしないでほしいと伝えました。そこまでしても、8月に「重要なお知らせがあります」と伝えるとみんなやっぱり雇用や賃金のことを心配したんです。実際は山口の産休入りのアナウンスだったのですが(笑)。

経営者が思っている以上に従業員はみんな不安なのだと再認識しました。なので僕らには気軽に言えない相談窓口やサポートの仕組みも新たに構築しました。

[2]未来志向になる
そして、この状況は未来のことを考えるいいチャンスとなりました。営業がほぼできなかった4・5月に僕たちがやったのは、社員全員で5年後10年後、コロナが沈静化した後にどんな社会が来るのか、そのときに何をすべきかを議論しました。

新製品や新規事業の企画で実態はかなり忙しくしていました。一例として、この状況下で新たにフードビジネスを始めました。2021年2月5日に発売開始したチョコレートは大変好評で、バレンタインデーを待たずに欠品が出たほどです。

[3]存在を消さない
最後に存在を消さずにアクションし続けることです。お店が閉まっていてもオンラインで発信できることを可能な限りやりました。その結果が先に述べたチョコレートの成功です。

ピンチに陥ると歩みを止めてしまいがちですが、そういうときこそ頑張っている姿を見せることに意味があると思っています。BtoBビジネスであってもこれは同じです。こんな状況下でも新規事業に取り組むことで、その姿勢が取引先に評価されて、結果として既存事業の受注が増えたという周囲の話も耳にします。

つらい状況だからといって姿を消してしまうのではもったいないことです。悲観せずに楽観的に最善を尽くし続ければ応援してくれる人が出てきます。

 
本日はありがとうございました。環境にじっくり向き合い、共に変化し続けていけるとよいですね。

 
(文/原きみこ)

 
山崎大祐氏(株式会社マザーハウス 取締役副社長)https://www.mother-house.jp/
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。その後、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念としたマザーハウスの経営への参画を決意し、07年に創業メンバーとして入社。19年から代表取締役副社長に。現在、マザーハウスは6カ国でバッグ・ジュエリー・アパレル等を生産、5カ国で40店舗を超える店を運営し、700人規模の会社となっている。他にも(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事を務める。

株式会社マザーハウス

取締役副社長

山崎 大祐氏

https://www.mother-house.jp

事業内容/発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売