線材曲げ加工技術を生かした、暮らしになじむ銅製マスクハンガー
自動車の座席の中に使用されるインサートワイヤーの製造を中心に、建築金物など線材の曲げ加工を得意とする毎日発條。コロナ禍で自動車業界は大きな打撃を受け、売上が半減した。
前山氏は「不安なコロナ禍の暮らしに寄り添える、インテリアとして飾れるようなオリジナル商品を作ろう」と、5月からデザイナーと提携しウイズコロナ商品開発プロジェクトを立ち上げた。
コロナ禍でのプロジェクトは新たな取り組みの連続。
県をまたいでの移動ができないため、テレビ会議やチャットなどリモートでの打ち合わせを重ね、自動車部品で磨いた線材加工技術を生かすこと、コロナ禍の暮らしに役立つものとして、抗菌性の高い銅線を使用したマスクハンガーを製作することに決定した。
暮らしに馴染むデザインと、日常的に使いやすい機能と曲げ加工技術を融合させるまで、前山氏の父である社長の前山一市氏が図面に落とし込み、これまでの経験を活かして試作を重ねた。
これまで主に扱ってきたステンレスや鉄に比べ、銅は柔らかく調整が難しい。試行錯誤を繰り返しながら、マスクを美しく干して飾れる商品が完成した。
第1回目のマーケティングをクラウドファンディング「Makuake」に定め、7月20日に開始。同日に記者会見やプレスリリースの発表を行ったところ、テレビの情報番組や新聞、雑誌、Webメディアに掲載され注目を浴びた。
クラウドファンディングの期限である8月30日には935本を売上げ、当初目標数の855%を達成した。コロナ禍で売上が落ち不安が高まる中で、反響の大きさに社内の士気も高まった。
クラウドファンディング終了後は、オンラインサイトBASEでの販売や百貨店催事に積極的に参加を予定している。
企画から販売開始まで約3ヵ月。スピード感を持ち、社内外の人と連携したプロジェクトを進められたことは、ブランド立ち上げ時の2年間の積み重ねが大きいと前山氏は振り返る。
同社は安全第一を基準に、1本目も100万本目も同じ品質が求められる中で、精密な技術を培ってきた。一方で、主力製品の売上減少傾向や若者の工場離れによる技術継承など課題を抱えていた。
「曲げ加工の技術を活かし、今ある商材で自分でも売上げを上げたい!」と前山氏は2018年に商品開発と販路開拓にチャレンジするプロジェクト「大阪商品計画」に参加。自社ブランド「WIRE STYLE」を立ち上げ、初めてのBtoCに挑んだ。
社内からは反発もあったが「自社の強みである曲げ加工で売上を立てる新しい柱が必要」と伝え続けた。また、「車の中に埋まっているワイヤーのように埋もれたくなくて。弊社の存在をたくさんの人に知ってもらいたくて」。
資料作成を行い、エントリーしたところ、大阪ものづくり優良企業賞2019『匠』」を受賞。2年間の格闘の中、「さまざまなセミナーで知り合った方から、商品企画、販売、PRに役立つ情報やアドバイスをいただいた。この多くの方からの支援が今回社内全体を動かすきっかけになった」と前山氏。
これからも人とのつながりを大切に、不易流行の精神を保ちながら時代の要求する商品を開発していくつもりだ。
(取材・文/三枝ゆり)