遊んでいる感覚で仕事してるかも
2,000℃近い高温の酸素バーナーの青い炎で耐熱ガラスを回しながら熱するとオレンジ色の炎が上がる。
耐熱ガラスは硬い上に、融点が高いため、手早く炎の中でガラスを丸くしたり、伸ばしたりしながら形作りをしなければならない。さらに、金や銀を蒸着して色や模様を入れていく。
新野氏はガラスの中に人工の宝石を入れたり、サンドブラストで描いた幾何学模様を何層も重ねたり、文字を転写したりと、新しい技術を取り入れた作品を作り出す。
新野氏が手がけたアクセサリーや造形作品は神秘的な宇宙やゲームの世界観を感じさせるが、「テーマは特に決めていません。常にいろんなことを実験したくて」と語る。
酸素バーナーを使ったガラス造形との出会いは大阪芸術大学1回生の頃。2年に1度招かれる外国人講師が行う特別講座で、バーナーワークを見たことがきっかけだ。
しかし、バーナーワークの授業はなく、すべて独学で技術を研究した。
同じ1本の耐熱ガラスでも作業時間や場所によってガラスの色は赤や白に変化し、思った色にならない。工程を間違えると割れてしまう繊細さがあるため「割れない工程を編み出すのがおもしろい」と試行錯誤も楽しんだ。
大学時代から手づくり工芸の施設「大阪市立クラフトパーク」でトンボ玉教室の講師として働き、大学院では作品制作に没頭する傍ら、人に教える楽しさも感じていた。
工房勤務を経て独立してからも数年クラフトパークの仕事を続け、どちらにも通ってくれる生徒さんに助けられた。「独立した当初は酸素バーナーの教室は少なく、クラフトブームのおかげもあって教室が順調なのはありがたかった」と振り返る。
大学時に習得したさまざまなガラスの技術をバーナーワークにも取り入れ、教室には研磨機やサンドブラストなど多彩な加工機をそろえる。
さまざまな造形ができることから、石垣島や海外から訪れる生徒も。現在は約50名の生徒が教室へ通っている。
作家として個展や教室展では「毎回新作を作る」というルールを課している。「見る人に次はどんな作品だろうと楽しみにしてほしい」と軽快に話す姿からは想像できないが、高校生までは無口なタイプだったという。「しゃべるのが嫌いだったけど、大道芸のサークルで人を楽しませることにはまった」。
教室も作品も人を楽しませたいという気持ちが原点にある。「今後は造形の魅力も伝えていきたい。造形は縛りがないので、自分の限界を超えた表現を追求したい」と新たな表現と技術に挑戦し続ける。
(取材・文/三枝ゆり 写真/福永浩二)