抽出、調合のノウハウで実現した「無添加」ポン酢
「谷町ぽんず」の専用ホームページには、製品づくりのこだわりが紹介されている。担当者が原材料の昆布、鰹節、柚子、椎茸について国産の最高の素材を求めて生産者を訪ね歩く姿が描かれ、その原材料がどのように加えられて最終製品に仕上がっていくかがわかる。商品の最大の特徴は、化学調味料や保存料を一切加えていないこと。「ポン酢はたくさんのメーカーから手ごろな値段で出されている。後発メーカーとして何か特徴を出さないと見向きもされないと思った」と中村氏は開発に至った7年前のことを振り返る。
事業の柱はシロップやコーヒー飲料の製造で、卸を通じて喫茶店、料飲店向けに販売している。だが、チェーン店の台頭で喫茶店は大きく減少し、工場の稼働率を上げるために夏場向けに偏りがちだった商品構成を見直す必要が出てきた。「冬場の商品はないかと探していた時、仕入商品の一つだったポン酢のメーカーが生産を止めることを知り、それならうちで作ってみようということになったんです」。
だが、どのように作るのかさえ知らない。まずは市場に出回っている80種類ほどのポン酢をかき集め、原材料の分析から始めた。そのほとんどが化学調味料、保存料を加えていることを知り、「無添加」の可能性にかけた。添加物を入れない場合、安定した品質をどう保つかが最大の課題となる。しかし長年培った抽出・調合のノウハウを駆使し、2年後に満足のいく製品が完成した。
初めてとなるBtoCの商品だけに最大のハードルは販路の確保だった。アッパークラスの量販店に狙いを定めたが、バイヤーと会う術がわからない。その量販店と取引のある卸の担当者が代わり、あいさつに行くタイミングをとらえ同行を頼み込んだ。食品の安全・安心への関心が強まる中で「無添加」はバイヤーの心に響いた。店頭では試食販売に力を入れ、「売ることよりも知ってもらうこと」に時間をかけ、リピーターを増やしていった。その実績が他の量販店、百貨店との交渉でアピール材料になった。市営バスの車体を使ったラッピングバス、地下鉄の吊り革を使った広告など「多くの人の目に触れる」手段を多用している。
昨年9月にはシリーズ化第一弾として「塩ぽんず」も商品化。今後はポン酢になじみの薄い関東の市場でも攻勢をかける一方、今秋にはタイのバンコクの百貨店でも売込みを図る。また、「谷町」ブランドを広げるべく「今後は商品アイテムも増やしていきたい」と話している。
▲抽出・調合のノウハウが蓄積されている製造ライン。
▲北海道産の昆布に鹿児島産の鰹節を使用、全国からこだわりの素材を厳選している。
▲市営バスを使ったラッピングバスの広告。
▲取締役社長 中村 訓康氏
株式会社中村商店
取締役社長
中村 訓康氏
http://www.tanimachi-ponzu.jp/
設立/1962年 資本金/3,000万円
従業員数/38名 事業内容/「Captain」ブランドで業務用のジュース、コーヒー飲料、シロップなどを製造。またPB商品のOEM製造も請け負う。近年は「谷町ぽんず」をはじめBtoC商品の製造販売に注力している。