《講演録》「小さな企業が生き残る」これからの時代のモノづくり×デザイン×経営
―― 御社の面白いところに、ファンがいて顧客設定がしっかりしている企業とのコラボで売る場所を作っているというところがありますね。そういった相手先はどう獲得してくるのですか。
ユニクロの時もそうだったのですが、媒体としての価値がそこにあるかということと、あとは彼らが欲しいと思っているものがちゃんと提供できるかということです。
よく4P戦略と言いますが、それでいうと彼らはプロダクトは欲していないと思うんです。彼らが欲しているのはPromotion(プロモーション)なんです。
かたやこちら側はPlace(プレイス)、どこで展開するかという流通が欲しい。その部分で組めるのではないかということでTシャツを無地で売るより企業広告を入れた方が面白いのではないかと思ったんです。
―― もう一つ、こんなにモノが溢れた中で、エッジの効いた、ちゃんと世の中に残るようなモノが作れるというのが御社のすごいところだと思うのですが、何かヒントを教えてください。
私の頭の中に常にあるのは、アイデアとしてどこかのポイントが高ければいいということです。「どこかで見たことがあるような商品」はどこのポイントの点数も低いということ。その時はかなり販管費をかけて売らないと難しいかなと思います。
あとは、製品として作りにくいデザインになってしまう例は、私たちのような業種が加担しているケースがあります。だからといって作りやすさだけ望んでも、製造する会社にとっての未来資産にはならないので、頑張ってもらうところは頑張ってもらうというところです。
―― 最後に小さな企業が生き残るために必要なことを教えてください。
一つは素材と技術の革新を進めるということですね。デザインだけでなんとかしようというのは、もうそろそろ限界が来ています。日本で素材と技術を研究している機関はたくさんあるのですが、すごく「縦割り」なんです。なので、今ここにいらっしゃる皆さんのような方にそういった情報をわかりやすく伝える人が必要だと思います。
ニつ目は商流の開発です。新しいものができても、誰がどこに持っていくのかということを考えないといけません。なので既存の商流以外のところも開発する必要があると思います。
そして三つ目が新しい市場にブリッジするということです。「新しいことに取り組むのに自分の動きは変えないのか」ということを私はよく言います。自分たちが変わろうと思うと変わるための内容物も必要です。それは全て会社に降りかかってきますが、時代が変わっているのですから、私たちも変わらないといけないと思いますね。
(文/モリタテルヨシ)
金谷勉氏(有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
1971年大阪府生まれ。京都精華大学人文学部卒業。大学卒業後、企画制作会社勤務を経て、1999年にデザイン会社「セメントプロデュースデザイン」を大阪にて設立。企業の広告デザインや商業施設のビジュアル、ユニクロ「企業コラボレーションTシャツ」、コクヨの博覧会「コクヨハク」、星野リゾートアメニティ開発などのディレクションなどに携わる。その傍ら、自社商品の開発・販売を行い、東京表参道にギフトショップ&ギャラリー「コトモノミチat TOKYO」を展開。2011年からは、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域産業協業活動」を始め、500を超える工場や職人たちとの情報連携も進めている。経営不振にあえぐ町工場や工房の立て直しに取り組む活動は、テレビ番組『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)で取り上げられ注目を集めた。各地の自治体からの勉強会や講演の依頼も多く、年間200日は地方を巡る。2014年度からは京都精華大学と金沢美術工芸大学でも講師を務め、2018年京都精華大学伝統産業イノベーションセンター特別共同研究員に就任。
山崎大祐氏(株式会社マザーハウス 取締役副社長)
1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年、ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。大学時代の竹中平蔵ゼミの1年後輩だった山口絵理子氏が始めたマザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。マーケティング・生産の両サイドを管理する。マザーハウスは途上国でバッグやジュエリー、シャツなどを生産。国内29店舗、香港および台湾8店舗で販売している(2018年7月現在)。https://www.mother-house.jp/