スポーツサングラス市場をけん引、創業100年を超える山本光学の経験とノウハウ
ランニングやマラソン時にスポーツサングラスをする人が増えている。紫外線から目を守ったり、集中力を高めたりといった効果が期待されているからだ。
普及のきっかけとなったのが1992年のバルセロナ五輪。有森裕子氏が女子マラソンで銀メダルを獲得した際、サングラスをしていたことが話題になったのだ。
そのとき有森氏がかけていたのが、大阪に本社を置く山本光学のスポーツサングラス「SWANS(スワンズ)」だ。
透明性や耐衝撃性などに優れたポリカーボネート製のレンズは紫外線を99.9%以上カットするうえ、スポーツに求められる高い強度を実現。さらにレンズとフレームの一貫生産により、日本人の顔の骨格にジャストフィットする形状に仕上げられている。
そんなSWANSの技術力のベースにあるのが、創業100年を超える山本光学の経験とノウハウだ。1911(明治44)年に眼鏡レンズ加工業として創業した同社は、戦前から工場従事者用に防塵メガネを開発してきた歴史を持つ。
「戦時中にはフレームの原料であるセルロイドを井戸に入れて戦火を逃れ、戦後は奇跡的に残ったその原料で水中メガネを製造・販売するようになりました」と4代目社長の山本氏は話す。
1946年、当時高級品の代名詞だった“白鳥”にあやかり、商品名を「スワン印水中メガネ」と命名。その後SWANSブランドのスキーゴーグルを発売。1972年の札幌冬季五輪でSWANSの知名度が一気に高まったという。
そして、1992年のバルセロナ五輪の際には、日本陸上競技連盟から「選手が着けるマラソン用のサングラスをつくってほしい」と要請が入る。現地の強い日差しを防ぎ、快適に走れる機能性が求められたほか、有森氏からは「ライバルに目の状態を悟られないようなレンズにしてほしい」と要望があったという。
同社は選手の声を商品開発に取り込みながらニーズに応えるサングラスを開発。見事、有森氏の銀メダル獲得に貢献したのだ。この時の製品開発は、2004年アテネ五輪女子マラソンで金メダルを獲得した野口みずき氏の着用モデルへとつながっているという。
さらに2008年以降、プロゴルファーの石川遼氏をアドバイザリースタッフに迎え、ゴルフ用のサングラス市場が急拡大していく。
こうしてトップアスリートを起用することでブランド認知度の向上につなげると共に、「選手の意見を商品開発の現場にフィードバックしてノウハウを蓄積し、それを一般向けの商品に注入して市場を切り拓くのが当社の戦略だ」と語る。
いま2020年東京五輪に向けた新商品の開発に取り組んでいる。「日本のトップアスリートを支えるスポーツギアをつくるため、技術力や特徴ある素材を持つ中小ベンチャー企業とどんどんタッグを組んでいきたい。共に東京五輪を盛り上げましょう」――東京2020に向けた機運はますます高まっている。
(取材・文/高橋武男)