【「キャットアイ」長編】性能、精度・・・ 常にめざすのはグローバルスタンダード
株式会社キャットアイは、1957年に日本で初めて本格的な自転車の反射板(リフレクター)を製造して以降、世界各国にも規格適合品を送り出し、国内シェア70%、世界シェア40%を誇っている。スピードメーター、ライトでも常に新たな開発テーマに取り組み、高シェアを獲得している。津山晃一社長に、世界のトップを走り続ける極意を聞いた。
〉〉〉自転車のリフレクターを製造することになったきっかけは。
1946年に津山製作所として創業しました。その後すぐに自転車業界の仕事を始め、金型を製造して自転車のプレス部品をつくっていました。当時は、アクリル樹脂が国産化されるなどプラスチックがハイテク産業としてもてはやされた時代です。
ある時、お客さんから、それまでガラス製だった自転車のリフレクターを国産化できないだろうかという話が持ち込まれました。そして57年に日本発の本格的リフレクターを「キャットアイ」の商標で発売しました。翌58年には、警視庁の性能テスト1位を獲得したことで業界に認められ、どんどん使われるようになっていきました。
〉〉〉金型の技術が優れていたということですか。
リフレクターは、自動車のヘッドライトの光が100メートル先を走る自転車の反射板に当たって自動車のドライバーの目の高さに帰ってくるように設計されなければなりません。中は非常に特殊な形状をしており、プリズムの集合体になっています。金型は、六角形のマッチ棒のようなピンを3本組み合わせてひとつの素子を作ります。ピンをつくる精度や素子の角度を出すにはノウハウが必要です。先代は住友財閥系の職人を養成する学校で金型の最終工程である鏡面仕上げを学んでおり、その技術が役立ったようです。
当時は日本で自転車市場がどんどん大きくなっていきましたが、米国をはじめ海外にも輸出されるようになります。特に大きな市場はアメリカでした。アメリカはどちらかというと消費者に対する安全の意識が高く、厳しい規格があります。反射角は、ナノレベルの精度が求められます。
当社は、この規格にチャレンジして適合することができ、輸出を増やすことができました。そのおかげで、アメリカ以外の国への輸出についても引き合いが来ました。自転車の規格は自動車と違って国ごとに違いがあります。
国内のリフレクターメーカーは多くあったのですが、当社のリフレクターは複数の規格を1社でカバーできたので、完成車メーカーにとってうちと取引すれば在庫が一つで済むので使われるようになり、シェアを増やしていきました。日本のリフレクターメーカーは国内市場しか見ていませんでしたが、当社は常にグローバルスタンダードを見てチャレンジしていたことが結果的に差別化につながったと思います。
最近は中国で「キャットアイ」のコピー品が出て円高のときには苦戦しましたが、逆にコピー品はJISなども規格にミートできていないことがわかり、またうちの製品に戻りつつあります。
同じ金型を使っても成型する時の圧力や時間で微妙に出来上がりが変わってきます。それをあらかじめ考慮して金型をつくらなければなりません。アクリル樹脂は水を吸収するのですが、季節によってその吸収度合いも変わってきます。それを考慮しながら季節ごとに成型の条件を変える必要があります。
もう一つ大事なことは、反射面を守ることです。水滴がつくと光らなくなるので完全防水しなければなりませんし、ほこりや紫外線に対しても耐久性を持たせなければなりません。もちろん変色してもいけません。100メートル先の反射板は点にしか見えません。いかに視認されるかを考えると奥深い世界です。
〉〉〉リフレクターにとどまらず、他の自転車部品にも挑まれたのですね。
リフレクターは1個当たりの単価が高いものではないので、収益を上げるにはもっと他の自転車部品を手がけていかなければと考えました。
自転車の速度や走行距離をデジタルデータで表示するサイクロコンピュータを1981年に発売しました。リフレクターとは畑の違う電子部品ですが、70年代から80年代にかけてスーパーカーを模した子ども用の自転車部品を手がけた際に、リトラクタブルのライトをつくり、そこで電子回路の技術を吸収していたことが生きました。
当時、アナログ式のスピードメーターはあったのですが、81年にトヨタの初代ソアラが国産車で初めてデジタルメーターを出した。そういうトレンドを先取りしながら製品に生かしていきました。当社の歴史を見ると、常に他の業界の動きをとらえながら、商品化しています。
バッテリーランプに関して言えば、84年に稲井電子がそれまで車のライトに使われていたシールドビームに替わる小型ハロゲン電球を発売しました。そこで当社はハロゲン電球のバッテリーライトを自転車用としては世界で初めて開発しました。また、91年にはBMWがHID(高輝度放電ランプ)を発売したのを機に、96年にHIDランプを、96年に日亜科学が白色LEDランプを開発したことを受け、2001年に白色LEDバッテリーランプの製造を開始しています。
1989年には、津山金属製作所からキャットアイに社名を変更しました。創業来の社是、「良い品を誠意と熱意と人の和で」があるのですが、良い品だけを作っていても売れる時代ではなく、付加価値を上げていかなければいけないとの思いから、「『安全』『健康』『環境』に新しい価値を創造し、社会に貢献する」という企業理念を定めました。
一時は自転車部品、付属品の八百屋をめざし、チャイルドキャリアなども製造していたのですが、それではブランド力が維持できないと考え、当社が強みを持つ反射板、スピードメーター(サイクロコンピュータ)、ライトに集約しました。
〉〉〉近年はどのような製品を開発しているのでしょうか。
リフレクターでは、車のライトが当たらなくても暗くなると自動的にLEDが点滅し、太陽電池で充電する製品を出しています。また、スピードメーターはGPS機能がついたスマホと連携させることでより楽しめるようにしています。
わたしも使っているのですが、たとえば琵琶湖1周を走った時のデータを見ると、7時間ちょっとで151キロを走ったことのほかに平均速度や勾配などのデータも表示されます。これらの製品のアイデアを考えるのは若いメンバーで、実際に自転車に乗ってアイデアを出してもらっています。
私は社員に対し、オンリーワンではなくナンバーワンをめざそうと話しています。オンリーワンになるとどうしても自分のところの利益しか考えなくなり、お客さんの欲しているものにならないからです。ナンバーワンは維持することは難しいですが、2位、3位と切磋琢磨することでよりよい商品ができる。
現在、リフレクター、スピードメーター、ライトすべてで国内ナンバーワンを維持しています。リフレクターに関しては世界シェア40%、スピードメーターはアメリカでは金額ベースでナンバーワンです。
〉〉〉社長も自転車に乗られているんですね。
今度、台湾1周にも出かけてきます。やはり実際に自転車で使ってみないとわかりません。もっと早く乗っておけばよかったなと後悔しています。
自転車で通勤する社員に対しては、電車を使った場合の交通費に加え、距離数に応じて余分にお金を払うシステムを整えました。また、自転車購入時にはその購入代金の補助も行っています。社内にはシャワー室も整備しました。以前に比べ、自転車通勤者がだいぶ増えました。試作品ができた時にはテストしてもらう社員が多くいるので助かっています。また、グッドデザインには毎年チャレンジし、社員のモチベーションにもつながっています。
〉〉〉自転車人口が増えています。
かつては単なる移動手段というイメージしかありませんでしたが、今ようやくスポーツバイクとして認知され、盛り上がってきているのを実感しています。スポーツバイクにはこういう製品をつけたら安全に楽しく走れるんだというところを世の中に発信していこうと考えています。
とくに今のトレンドとしては、今まで乗っていなかった年配の方がスポーツバイクを楽しむようになっています。自転車は健康にいいですし、介護予防にもなります。自転車で鍛えることのできる太ももは第2の心臓ともいわれており、心肺機能の強化にもつながります。また、女性の自転車人口も増えています。年配者や女性にとって使いやすい、楽しめる製品を送り出していこうと考えています。
▼Bplatz press 3月号本紙に掲載された記事はコチラから
https://bplatz.sansokan.jp/archives/2033