リピート率80% メンズオーダースーツを身近に
一人ひとりに合わせた「パーソナルオーダースーツ」の専門店として全国に約30店舗を展開し、約60億円の売上げを誇る。
「麻布テーラー」の名前だけ聞けば、東京生まれの店と思われがちだが、手がけるのは大阪の羅紗店が発祥で、海外ブランド紳士服を百貨店で販売してきたメルボグループだ。
1号店のオープンは1999年。「当時、オーダースーツといえば安くても10万円以上はして、40代、50代のおじさんが買うイメージを持たれていた。おしゃれな若者がかっこいいスーツを着たいという思いに応えたかった」と川勝氏。
価格は3万7千円からに抑え、人気のファッションイラストレーターを起用し、「憧れの世界」を演出した。就職が決まった体育会系の学生にモデルとして登場してもらい、20代、30代の男性がターゲットのファッション雑誌で取り上げてもらった。
当初は余裕がなく2階、3階という目立たない場所に立地せざるを得なかったが、それも逆手にとった。「ものは言いようで“隠れ家的”“知る人ぞ知る”と表現し、自分ならではの1着がほしいという人の気持ちをかきたてた」。
オーダースーツの店と聞くと入りにくいイメージを想像するが、店内は木を多用して温かみを演出し、親しみやすい接客を心がけたところ、反響は大きく、スーツを作った客が口コミで周囲に広げてくれる連鎖を生んだ。一度オーダーした客が再び購入するリピート率は80%を超え、すき間となっていた若年男性のオーダースーツマーケットをしっかり確立した。
人口の減少とともにスーツ着用人口が減っていくことは目に見えている。「麻布テーラー」ではここ2年ほどビジネスマンが読む媒体とタイアップした雑誌スタイルのカタログを作り、より認知度向上を狙う一方で、スーツ以外にもカジュアルウエアや雑貨などにアイテムを広げ「ビジネスウエアのセレクトショップ」をめざす戦略を打ち出している。
また新たに2万円台からオーダースーツが作れる「TAILOR FIELDS(テーラーフィールズ)」という業態も展開。「おしゃれにこだわりを持つ人は全体の1割ほどと考えたとき、残りの9割の方にはせめてきちんとしたスーツを着てほしいという思いでこれから広げていこうとしている」と川勝氏。
テーラーとしての気概を胸に同社グループは来年創業100周年を迎える。
(文・写真/山口裕史)