キーワードは「全員参加」「継続」、企業風土が変化
機械が映り込むほどに床が磨き上げられた工場には、工具類から備品、送付票に至るまで定位置が決められている。「20人の社員がものを探すのに1人1日3分かけているとすれば、経費に換算すると年間で約90万円の無駄がなくなる」。5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の効用を説く山本社長の声は力強い。
つい3年前まで、ちょっと歩いただけで靴の溝に油と鋼材の切り粉がベットリ詰まり、工場の奥には使われない鋼材が積まれていた。まずこの不良在庫の山を一片残らず廃棄することを決断。2009年6月に活動がスタートした。時はリーマンショック後で業績が落ち込んだ頃。あえて雇用調整助成金を申請する道は選ばず、「浮いた時間を全員参加による5S活動に充てた」。
活動は外部のコンサルタントを使わず自力で進めた。全社員参加で床にペンキを塗ったことで仕事場に愛着が湧き、汚すまいと日々の清掃にも力が入る。またそれまで個人持ちだった工具類をすべて共有にしたことで連帯感が生まれ、朝礼時の経営理念の唱和、安全パトロール、制帽の着用まで定着した。「以前であれば何度試みてもできなかったことばかり」だ。
5S活動の先に何かをもくろんで始めたわけではなく、「全員参加で必死に続けてきただけ。形から入って心に至り、結果的に企業風土が変わった」。取引先から取り組みを見学したいとの依頼が殺到し、工業高校の学生からの就職希望が増えていることがそれを物語っている。「やるかどうか、やり続けるかどうか、徹底的にやり続けられるかどうか」。山本専務は駆け抜けてきたこの3年の取り組みをそう振り返る。
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▲社長と専務も率先して参加
▲社員全員で日々清掃に励むことで連帯感が生まれ、社内の雰囲気も変わった。
▲以前はバラバラに置いてあった工具類も5Sを徹底。作業効率も大幅にアップした。
株式会社山慶製作所
代表取締役社長
山本 浩平 氏
1929年創業の特殊ボルト・ナットメーカー。圧力容器、熱交換器、化学プラント、ボイラー、船舶など大型設備向けが多く、すべては受注生産。1929年の創業で、直販が多いことも特徴だ。