組織力強化、お客さまに満足を
全国各地から数々の食材が集まってくる大阪市福島区の市中央卸売市場本場。東京の築地市場に次ぐ規模を誇る市場で、青果の仲卸業を営むのが井上商店だ。
明治時代に祖父が天満市場で創業。その後本場に移転し、以来、一貫して仲買業を続けてきた。
現在の井上隆之社長は就任前に、コンビニエンスストアの店舗運営管理を手掛けたり、輸入野菜を取り扱う商社に勤務したりした経験がある。
同業者の多い市場内で、露地栽培よりも成長や収穫、出荷を早めて栽培した促成野菜や、料理に彩りや香りを添える個性的な西洋野菜を主に扱い、陳列に工夫を凝らして商品の見せ方にもこだわる。
こうした演出は、過去の多彩な職歴を生かして発案したという。仲卸業の仕事は、深夜から翌日夕方まで長時間に及ぶ。労働条件は厳しいが、社員の年齢は平均30代半ばと若く、それぞれ与えられた役割を手際よくこなしている。
しかし井上社長は、ある経営関連のセミナーに参加した際、現状では会社が人的な要素に依存しすぎて、組織的な動きができていないことに気付いた。
そこで改善策として、それまでは「時間調整が難しい」と諦めていたミーティングの場を設定することから始めた。初回のミーティングでは、期待通り社員から積極的な意見が数多く出された。
その結果を踏まえて、まずは「無駄な動きをなくそう」と、商品を補充する際は社員同士が互いに声を掛けたり、担当以外の商品も一緒に取り扱ったりすることをルール化。たちまち業務効率が改善した。
さらに、取引先の飲食店などにも積極的に出向き、取り扱っている野菜などを調理したメニューを実際に食べてもらい、率直な意見を聞いた。
また「組織として動いていくには、社員の自主性が重要」と考え、経営判断をする社長の権限を部分的に、徐々に社員へと移した。
こうした地道な取り組みが顧客からの評価につながり、最近では顧客の新規獲得にもつながっている。
今後も、社員同士や取引先などと協力し、さらに業務効率や提案力を高めていく方針だ。
井上社長は「お客さまの満足度を高められるよう、今後も組織力を強化していきたい」と意気込む。
(経営相談室コンサルタント 東純子)
▲組織力強化に向けてミーティングをする井上商店の社員