元気な美容室がめざすのは「日本一ヤバイ会社」
この企画、めちゃめちゃヤバくないですか?」「めっちゃヤバイやん。それでいこ!」美容室を展開するSnipでは、こうした会話が日常的に飛び交う。「ヤバイ」というのは単なる若者言葉ではない。企業ビジョンに「みんなで2020年に日本一のめちゃめちゃヤバイグッドカンパニーになる」とあるように、れっきとした社内公用語だ。「たくさんの美容室があるなか、どこよりも変わっていて、楽しく働ける美容室をめざす姿勢を〝ヤバイ〟に込めました」と清水氏は説明する。
19年前に創業した際、「楽しくいきいきと働ける美容室をつくりたい」と思った。しかし経営の勉強をすればするほど、「ルールで組織を縛りつけ、面白くない会社になっていた」。業績は右肩上がりを続けたが、組織に元気はない。「当時は孤独で、すごく落ち込んだ時期もあったんです。俺はこんなに頑張ってんだと社員に必死に訴えていました。でも誰一人共感してくれなくて、何をやってもだめでした」。
そんなあるとき、本で〝任せる経営〟の大切さを知り、立ち返ったのは創業時の思い。「それを社員に伝えるため、アフロヘア&サングラスで仮装し、今日からめちゃめちゃヤバイ会社になるぞ! と宣言したんです(笑)」。場がシラケるかと覚悟したが、「社長、それ楽しそうですね」と予想外の反応で驚いたのは社長のほうだ。以降、売上より〝いかにヤバイか〟を軸に経営のかじ取りをするようになった。
以前は各店舗の売上目標にも細かく指示を出していたが、一切を任せることに。「言いたいことがあってもぐっと我慢。本人が気づくのを待つ」。経営者が感情に任せてその場で口を出したところで得られる効果はない。失敗を経験させ、本人が気づくのを待つ。次第に社員の自発性が芽生え、活気ある組織に生まれ変わっていった。
一連の組織の変化は、社員の定着率の良さにもつながっている。人の入れ替わりが激しい美容業界にあって離職率は1割。その理由は任せる経営にあるほか、採用方法にも秘訣がある。同社の面接は店舗で1日働く実習型で、社長も含めた全社員が1票を投じて合否を決める。「みんなで選んだスタッフという意識を現場に持ってもらうことで、離職率が下がりました」。
最近の会議で、街で見つけた雑貨を店舗に飾りたいと提案したら却下された。「社長の提案が却下されるなんて『ああ、いい会社になったなぁ』と思いました(笑)」。
(文・写真/高橋武男)
株式会社Snip
代表取締役
清水 幸樹氏
http://www.familysalon-snip.co.jp/
事業内容/大阪市内に8店舗の美容室を経営する。「ファミリーサロン」というコンセプトで、「生涯通いたい店舗づくり」に力を入れる。