老舗カステラ屋がブランドコンセプトを再定義 日本一のお菓子激戦区に参戦
つくりたてのカステラを中心にどらやきやラスク、バウムクーヘンを展開する「黒船」。いまや関東と関西を中心に大人気のブランドだ。2003年に阪急うめだ本店に1号店をオープンし、2006年には東京・自由が丘本店を開店。この本店の成功により、現在関東に10店舗、関西・九州に7店舗を展開し、今年の3月には名古屋にもオープンしている。
この黒船の母体は、大阪に本社を置く長﨑堂だ。1919 年に長崎で創業後、1924年に大阪に拠点を移した老舗お菓子メーカーであり、黒船はその新ブランドとして誕生した。黒船ブランドは四代目となる現社長の荒木貴史氏と、取締役の荒木志華乃氏が二人三脚で立ち上げ、若きスタッフたちとの総力で軌道に乗せたという。
黒船の誕生から遡ること15年前。共にデザインを学んだ貴史氏と志華乃氏は長﨑堂から新ブランドを立ち上げるが、コンセプトの詰めの甘さなどもあって撤退を余儀なくされる。「あのときの失敗を糧にブランドの定義を明確にする作業から始めた」と貴史氏は振り返る。
コンセプトメイキングで徹底したのは余分な要素をそぎ落とすこと。カステラは16世紀に日本に伝わったとされる歴史ある商材、「新ブランドで注力すべきは90余年の歴史で培った商品力」と確信。商品点数をカステラやどらやきなど数点に絞り込み、つくりたての美味しさにこだわった。そのコンセプトに相応しい表現として導き出した白と黒のデザイン。余分な色を排除することで、商品そのものの存在感を際立たせた。
まず関西を中心に店舗展開を進めた結果、「じわじわ伸びていく手ごたえをつかんだ」。そこで同氏は賭けに出る。日本一のお菓子激戦区とされる東京・自由が丘に路面店を出したのだ。周囲からは無謀といわれたが、「この場所で認められなければ撤退する」との覚悟で挑んだ。結果は大成功。カステラをはじめ新たに開発したラスクなどの人気に火がつき、「フロンティア精神で新ブランドの浸透に取り組んでくれたスタッフたちの力で軌道に乗った」と感謝する。
黒船は大都市圏のみに出店し、同地域での多店舗展開はしない。理由は「あの店に行かなければ手に入らないという希少性」だ。出店依頼が相次ぐが、ブランディングを優先して断ることもあるという。今後は路面店の開拓を中心に展開していく考えだ。
▲すべての味の原点となる長﨑堂初期のカステラ。昭和9年に缶詰カステラの発明特許を取得し、ヒマラヤ登山隊の携行食としても採用された。
▲東京(左)と大阪(右)に直営店を展開する。
▲代表取締役 荒木 貴史氏