ベンチャー精神を失わず10年先の物流を描く

~25周年特別連載~
Bplatz その後の物語 vol.04
株式会社PAL 代表取締役 辻 有吾氏
創刊25周年を迎えたBplatz press。本企画では、これまで誌面に登場いただいた企業の“その後”をあらためて訪ねる。掲載当時の挑戦は、その後どう発展し、どんな姿へと進化しているのか。企業の現在地から、これからの可能性を探る。
「ベンチャー企業の良さはビジョンを自由に描けるところ。でも自由すぎると失敗する」と自戒を込めて語るのは株式会社PAL(パル)代表である辻氏。物流業界に特化した人材派遣で2000年に創業し、物流ソリューションを軸に事業を拡大してきた。創業から12年後、本誌に掲載された辻氏のインタビュー記事には「ベンチャー」の文字が何度も登場し、記事の最後は「何年たってもベンチャー企業であり続けたい」という決意表明で結ばれている。
このベンチャーマインドは今も健在だが、経営の視点は、その後大きく変わった。記事掲載から2年後の2014年、同社は通期赤字に陥り、資金ショートの危機に見舞われる。その要因を探るなかで、辻氏は自身の経営姿勢を見つめ直した。「やはり短期的に物事を見ていたんです。目先の売上げを求めて受けるべきではない仕事を受け、それが会社の寿命を縮めていたことに気づきました」と当時を振り返る。

代表取締役 辻 有吾氏
物流は国の基幹産業だ。だからこそ、その動向を先読みし、将来のニーズに備えることが経営の安定につながる。「目先の仕事に振り回されていたら社員も僕も幸せになれない。でも国の将来を見通すには、世界の動きを知る必要がある」。長期的な経営視点の重要性を痛感した辻氏は経営の傍ら地政学を学び、世界の政治や経済に対する洞察力を磨いてきた。「長期視点の経営に変えてからは、10年先の国の物流政策を見据えて事業を作ってきた」というが、その言葉どおり、同社は時代の変化をとらえた事業を次々に展開してきた。
2015年頃にはAI時代の到来を見据え、人工知能やロボティクスを取り入れた物流サービスの基盤づくりに向けて動き始める。「当時はロボットやAIについて語っても、誰も相手にしませんでしたね。でも、誰も手を付けていない領域に挑んでこそベンチャー。世の中の流れを見れば、いずれ物流とテクノロジーが融合すると考えていたので、突き進むことができました」と辻氏。その後、国のDX推進にコロナ禍という特殊要因も重なり、同社のソリューションへの需要は拡大。トラックドライバーの時間外労働が制限された「2024年問題」や、2026年4月からの一定規模以上の荷主企業に対する「CLO(物流統括管理者)」の選任義務化など、物流を取り巻く環境が変化するなか、タイムリーにサービスを提供する同社に、大手の荷主企業も信頼を寄せる。「創業期は大手の下請けとして走り回っていましたが、今は対等なパートナーとして頼っていただけるようになった」と成長ぶりを語る。

では物流業界の「次の10年」を辻氏はどのように見ているのか。「重要なのは人口動態で、日本はこの先も人口減少が続くとともに、都市部への集中が進みます。その分布に合わせて物流倉庫の立地や、それらを結ぶ物流網も最適化されていくでしょう。同時に倉庫のスマート化や自動運転トラックの実用化などを通じて、業務の効率化、省人化も進みます。その市場環境に適応すべく、物流業界の合従連衡も進んでいくでしょう」と分析。
さらに、近年進む「お金」のデジタル化も物流に大きな変化をもたらすと予測する。「荷物が運送された記録は今後デジタル化が進み、そのデータは業界の垣根を越えてつながっていくでしょう。それを企業間の決済データとして活用できるようになれば、荷物を運ぶごとに即時決済が可能になり、運送業者は『請求して入金を待つ』というキャッシュフローの課題から解放される可能性があります」。

重要なのは、このような世界が実現したときにプラットフォームの中心にいることだ。その点、早くから物流DXを見据えてデータを蓄積してきた同社には強みがある。「いつ、どんなルートで荷物が運送されたか、どの倉庫で誰が荷捌きしたのか、といったデータを私たちはずっと取り続けています。また、それらのデータをAIで解析し、より効率的な物流の形も模索しています。かつては運送や荷捌きに関わっていないと物流業界に参入できませんでしたが、これからはデータを握ることが生命線になります」と展望を語る。
早くからITの可能性に着目し、データとテクノロジーを活用した事業を展開する一方で、辻氏は「人」を大切にする経営者でもある。「うちは社員とその家族にお米を配っているんですよ」と独自の社内文化を明かしてくれた。「育児中の社員には無農薬の野菜も配っています。会社が生んだ利益は、やはり僕が一番感謝すべき社員とその家族の健康のために使うべきだと感じたのです。この『人を大事にする』というのは弊社の大切な文化です」と力を込める。

人を大切にするから、人が協力する。そんな関係性がPALの成長を支えてきた。先述の通り、2015年頃から新たなソリューションを開発してきた同社だが、その原動力となったのが辻氏の元に集まったエキスパートたちだ。世界的な企業でスマート倉庫の構築を指揮した技術者など、物流とテクノロジーの両面に精通した人材がPALに参画し、サービスの基盤を築いてきた。「会社が成長期に入るときには知恵袋が必要です。経験や人脈はお金で買えないですからね」。
変化とリスクを恐れないベンチャー精神と、地政学を学ぶことで培ってきた長期的な視点。さらに、人を大切にする姿勢を持つ辻氏は、会社の未来について次のように思いを巡らせる。「会社の価値は『何年続いたか』だと思っています。100年続く企業は、決して同じ事業を100年間続けているわけではなく、時代に合わせて変化していますよね。その事業変革は事業家の醍醐味でもあります。私たちの場合、国の方向性にアジャストしていけるか、国の政策が業界に与えるインパクトを成長エネルギーに変えられるかが存続の鍵を握っています」。
頼もしいのは、会社を未来へ受け継ぐ経営幹部の存在だ。「最近は『もう私たちに任せてください』と幹部会に入れてくれない」と笑う一方で「26年かけて、やっと組織が育ってきた」と安堵の表情を見せる。「社員への愛情と、絶対に踏み外してはいけない道を示すこと。そして『10年後はこうなるから、次はこうしよう』というビジョン。社長に必要なのは、そのくらいじゃないでしょうか」。

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)









