30年かけて磨く手仕事 手込め鋳造が生み出す価値

金属を溶かし、砂型に流し込む鋳造(ちゅうぞう)。
その品質を左右するのは設備ではなく職人の経験と勘。
東大阪で受け継がれる手込め鋳造の世界を追った。
金属を溶かして型に流し入れる「鋳造」は紀元前から続く加工法で、日本でも茶器や農工具といった身近なものから大仏などの大規模なものまで幅広く使われてきた。近年は機械化が進み、昔ながらの手作業で鋳造を手がける事業所は数えるほどしか残っていない。その一つが、東大阪で手込めの鋳造技術を守り続ける恵美寿鋳工株式会社だ。

「手込め」とは鋳型を作る工法の一つで、木製の型枠に砂を入れて押し固める一連の作業を職人が手作業で行う。大型の設備が不要で、1点ものの部品や試作品など、多品種少量生産に適した工法だ。「機械生産の場合、型に数十万円の費用がかかりますが、1個しか作らない部品のために、なかなかそんな予算をかけられません。数万円でつくれる手込めの型には、一定のニーズがあります」と代表の久下氏は語る。

代表取締役 久下 歩氏
また、仕上がりの表面(鋳肌)の美しさも特長だが、これは職人の熟練技術に支えられている。型に流し入れる砂は適度な粘土成分を含んだ山土で、水分量やふるい方によって型の状態も変わる。押し固めるときの力加減や原型と土を引き離す際の微妙な手さばき、ガス抜きのための穴あけなど、いずれも仕上がりに影響する緻密な作業だ。「一人で型を作れるようになるまで10年はかかる」という。

鋳型にガス抜き穴を開ける作業。わずかな違いが仕上がりに影響する。
ただ、それで一人前というわけではない。型を作る「技」だけでなく、依頼に応じて型作りの計画を立てる「知」もまた、職人の重要な要素なのだ。「鋳物の型は上下で半分に分かれますが、その境目である『見切り』をどこに引くか、また土台となる『捨て型』を作る必要があるかなど、製品の形状ごとに型作りの工程も変わります。最適な工程を考えられるようになるまで、さらに10年から20年は必要だと思います。だから熟練した職人になるには最低でも30年はかかることになります」。

息を吹きかけて余分な砂を落とす。繊細な手仕事が鋳肌の美しさにつながる。
久下氏が鋳造の世界に入ったのは約36年前。父の技術を受け継いで職人の道を歩み始めた。市場環境の変化に直面しながらも技術を磨き続け、勤務先の事業所の廃業に伴い、取引先を引き継ぐ形で2025年に恵美寿鋳工を設立。多くの製造業が時代とともに機械化や自動化、海外移転などを進める中、この昔ながらの技術を守ってきた理由はただひとつ。得意先からの「やめないでほしい」という声だ。「昔は東大阪だけで100軒近くあった鋳物工場も、今では3軒ほど。でも試作品やオーダーメイドの機械などを作るために、小ロットの部品に対する需要は常にあるため、私たちのような加工業者を探しているメーカーはたくさんあります」と久下氏。実際に、得意先の約半分は直近の数年で新規顧客となった企業で、現在も定期的に新規の取引依頼が来るという。

山土を押し固めて鋳型をつくる「手込め」。力加減一つで仕上がりが変わる。
興味深いのは、そのルートだ。「原型となる木型を作ってもらう工房や、資材の仕入れ業者など、協力会社の方が新しいお客さまを紹介してくれます。鋳造業者がなかなか見つからないので、お客さまも関連業者に問い合わせるのです。また同業の鋳造業者からも、自社で対応できないような小さな部品などの加工をご依頼いただくことがあります」。

溶かした金属を鋳型へ流し込む「鋳込み」。製品の品質を左右する重要な工程だ。
時代の波に乗らず、昔ながらの技術を守ることが新規顧客の獲得につながる。一見すると稀なケースにも思えるが、これを可能にしているのは品質に対する徹底したこだわりだ。「同業者が判別できないような微細な不良でも、私たちは見逃さず、作り直します」と、その厳しさを語る。「私たちは営業をまったくしていません。質の高い製品を納めていれば、品物が勝手に営業してくれます」。品質に対する徹底したこだわりが続く限り、同社の事業はもちろん、手込めの鋳造技術も継承されていくに違いない。

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。









