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「熱を印刷する」発熱インキの可能性に挑む

2026.08.03

熱は加工のためだけに使うものではない。
創業130年超のインキメーカーが挑む、新たな価値創造とは。

創業から130年余りの間、印刷用インキの製造ひと筋で歩んできたOPI(オーピーアイ)株式会社。特に顔料を液体の中に均一に拡散させ混ぜ込む分散・撹拌技術を強みに、業界で確かな地位を築いてきた。しかし、近年はペーパーレス化の影響を受け、印刷用インキ事業は縮小傾向が続いている。そうした逆境の中で、ある企業との出会いから、カーボンナノチューブ(CNT)の可能性を知ることとなった。CNTは軽量かつ高強度、高い導電性、熱伝導性などさまざまな特性を持つことから、半導体材料をはじめ、さまざまな用途で開発が進んでいる。この注目される新素材を活用してインキにできないかと考えた。

水性インキ専用の柏原工場 (大阪府柏原市)

インキ化するにあたっては数々のハードルが待ち受けていた。一つめは、「ナノ」と名が付いているように、従来扱っていた顔料とは比べものにならないほど粒子が小さいため、均一に分散させることが難しいことだ。分散させるには、溶液に微粒子のビーズを混ぜて激しく撹拌し衝突させる必要がある。そこでビーズの素材やぶつけ方などに工夫を重ねることで、この課題を克服した。もう一つは、ナノ粒子でチューブ状の形状をしているCNTは表面積が大きいため、水や樹脂が吸着しやすく、液の粘度が高くなってしまうことだ。これについては、ハンドリング性を向上し粘度を抑えるための添加剤の種類や量を変えながら検証を進め、最適化を図った。こうしてCNTの特性を最大限に引き出す発熱インキ液が誕生した。

グラビアインキを製造する大山田工場 (三重県伊賀市)

当初は、黒液(CNTを分散させた液)を展示会に出展し、顧客開拓に努めた。「CNTは導電性の高さが広く知られていたので、当初はこの黒液を塗ることで電気を通す膜が作れることをアピールしました。ただ、どのような用途で使ってよいのかわかりにくく、導電性に関しては競合製品が多いため、差別化を図るのが難しかったんです」と小松氏は振り返る。そこで、他社がほとんど手掛けていない「発熱材」としての機能に絞って打ち出すことにした。さらに、用途を具体的にイメージしやすくするため、フィルムにインキを印刷し、発熱シートの形状にして出展した。「インキの厚みや電圧で発熱温度は自由に調整することができます。実験上は400℃程度まで上げることも可能です」と岸田氏は説明する。

最初の実用化事例となったのは農業分野で、近畿大学農学部が奈良市に保有するイチゴの高設栽培のビニールハウスで、土壌を加温するシートとして使われている。従来、冬場は重油を燃料にしたヒーターでハウス全体を温めていたが、発熱シートを直接土壌に敷くことで、冬場でも土壌を10~15℃程度に保つことができる。「たとえて言うならエアコンをこたつに変えた」と小松氏。重油ヒーターを使う場合に比べ、初期導入コスト、運用コストともに大幅な削減が可能となったと評価されている。

イチゴの高設栽培にて土壌を加温する様子。

CNT発熱シートは、薄くて軽く、曲げることも可能で、これらの特性を生かし、応用領域を拡大しようとしている。すでに、冬場の融雪ヒーターや宇宙での温度管理が課題となる人工衛星用ヒーターとして引き合いが来ているほか、今後は自動車のシートヒーターなどの市場開拓も狙っている。130年超の歴史の中で磨き上げた分散・撹拌技術が今、新素材との出会いで新たな可能性を切り開こうとしている。「CNTで培ったノウハウも生かしながら、印刷用にとどまらないインキの新たな可能性を追求していきたい」と岸田氏は将来を見据えている。

左から事業推進本部 部長 兼 新領域開拓課 課長 岸田 浩孝氏、事業推進本部 新領域開拓課 係長 小松 洋介氏

(取材・文/山口裕史)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。

OPI株式会社

事業推進本部 部長 兼 新領域開拓課 課長 岸田 浩孝氏
事業推進本部 新領域開拓課 係長 小松 洋介氏

https://www.osakaink.co.jp

事業内容/印刷用インキおよびそれに関連する化学製品の製造販売