ものづくり

履き心地+機能性で進化するインソール

2025.10.20

日本におけるインソール(靴の中敷き)の歴史は、戦後、日本人のライフスタイルが西洋化し、革靴が普及したことから始まった。インソール製造の木原産業株式会社が設立されたのは1955年。材料には、株式会社クレハ(旧・呉羽化学工業株式会社)が開発・販売した家庭用ラップフィルムと同じPVDC樹脂を原糸に加工したクレハロン繊維を用いた。弾性回復力を持つクレハロン繊維を立体構造のハニカム織物にする事で通気性も確保できる。これを足型に切断し重ね合わせ、高周波ウェルダー加工によって端部を溶着するのが完成までの工程となる。1959年から防衛庁(現・防衛省)に採用され納入した履歴を持つ。

長らく履き心地の追求が中心だったインソールが、新たな役割を広げたのは1990年代以降のことだ。健康志向や衛生意識の高まりにより、インソール市場にもさまざまな機能を加えた商品が次々とリリースされた。同社も、1990年頃から立体成型を用いた3D形状のカップインソールなど、新たな樹脂を原材料にした製品を開発。近年では、歩行時に最も衝撃を受けるカカト部分にアクリル発泡体を採用した「腰痛防衛隊」、多重のメッシュ構造でムレを防ぎつつ、特殊な防臭シートを挟み込んだ「悪臭防衛隊」がヒット。やわらか高反発素材を用いた「マシュマロイン」シリーズは累計100万個を超える人気商品に成長した。

累計100万個を超える人気商品に成長した「マシュマロイン」シリーズ。

店頭やECプラットフォームを通じて寄せられた顧客の声を商品企画に活かし、自社工場での製造によりスピード感のある商品化を可能にしている。また、同社はインソールを他社にOEMとして供給する一方で、インソール以外の商品については逆にOEMで提供を受け、防水スプレーから靴べら、靴磨き用品まで、靴まわりのアイテムが一通りそろうラインナップを実現している。中でも親指と人差し指の間に挟むことで摩擦を和らげるフットケア商品「外反母趾楽歩」はシリーズ累計100万個を超えるヒット商品となっている。

フットケア商品「外反母趾楽歩

1955年に祖父の兄弟3人で設立したという木原産業。2代目はいとこ3人が継承し、そして現在は、はとこの世代へとバトンタッチされ、親族3人がそれぞれ製造・営業・経理の分野を担当している。「お互いに歯に衣着せず言い合いながら、調和を保てることが、70年間会社が続いた秘訣」と語る。「一般的にまだまだインソールを知らない方も多く、市場開拓の余地は大きい」と木原氏。「停滞は衰退」という考えのもと、今後も顧客の声を活かしながら、高齢者向けの健康商品をはじめとする新たな需要に応える製品開発を続けていく予定だ。

代表取締役社長 木原 裕喜氏

(取材・文/山口裕史)

木原産業株式会社

代表取締役社長

木原 裕喜氏

http://actika-web.jp

事業内容/インソールの製造・販売