一人ひとりがアップサイクルを楽しむ社会に
トランペットが照明に、ランドセルが時計に……。upcycle interior(アップサイクルインテリア)では捨てられるはずだった学校の備品をインテリア製品に生まれ変わらせている。「長年使ったものを簡単に捨てるのではなく、違う使い道もあることを知ってほしい」と土井氏。事業を通じてめざすのは「一人ひとりがアップサイクルを楽しむ社会」だ。
目次
― アップサイクルでインテリアを作ろうと思ったきっかけは?
10年ほど前に、廃校になった小学校の机やいすが捨てられるというニュースを見て、心が痛くなりました。そこで、捨てられる予定の机やいすを集め、脚の傷んだ部分を切ってローテーブル、ローチェアに再生し、販売を始めました。廃校となる学校に伺ったところ、楽器類なども捨てられていると聞いてそれらも取り寄せ、照明や時計などのインテリア製品に生まれ変わらせることにしました。ほこりをかぶっていたものが新たな時を刻み始め、生活を照らしてくれるというメッセージもあわせて伝えています。
製品づくりで心掛けているのは、使われてきたものの形をそのまま生かしてアップサイクルすること。昔、父が自宅で塾を開いており、2階部分に机といすを並べて教室として使っていました。現在はその部分を工房にして、作品をつくっています。
― どのようにして製品をつくっているのですか?
モノづくりに関しては素人だったので、初めはYouTubeなどを参考にしていました。何を作るかというアイデアを思いついたら試作をして、近所の町工場の職人さんに、「こんなものを作ろうとしているのですがどう思いますか?」と製品化に当たっての注意点やヒントを聞きに行っています。例えば電気の配線を通す穴は傷つきにくいようにカバーを付けたほうがいい、楽器を載せる土台を安定させるためにはこう加工したほうがいい、といったアドバイスをもらっています。
職人さんは無理難題になるほど腕が鳴るようで、ノリノリでアイデアを出してくださいます。今では、金属、木材、皮革などを扱うさまざまな職人さんとつながっています。平日は会社に勤務しているので週末に作業をしていますが、それだけでは間に合わず家族にも手伝ってもらっています。
― 販売はどのように?
もっぱらネットで売っており、フリマアプリなども活用しています。最近は百貨店からも声をかけていただき、対面での販売も増えてきています。素材の傷み具合、さび具合などが製品ごとにバラバラなので、製品の状態も見て気に入っていただくのが本来の姿だと思っているので、今後は対面販売を増やしていきたいと考えています。
当初は、購入された方から「状態が思っていたものと違う」といったクレームが来るのではないかと心配していたのですが、ほぼクレームはありません。むしろ「思ったよりきれいすぎた」と言われることがあります(笑)。使い込まれた風合いをそのまま楽しんでいただいているのだと思います。
― 10年やって来られて社会の変化をどう感じていますか?
SDGs、エコへの意識が高まったことで、ごみを出さない、リサイクル、リユースするという意識が格段に高まったのを実感しています。私たちもさまざまな企業に、捨てられているものを引き取れないかという相談をさせていただくのですが、積極的に協力してくださる企業が増えてきました。島村楽器さんは使わなくなった楽器の買取をしているのですが、これまで引き取れていなかった、状態が悪く修理不能な楽器を私たちに回していただけることになりました。そして、私たちが照明や家具に生まれ変わらせ、島村楽器さんが販売。その収益で新たに楽器を購入し、楽器演奏の機会に恵まれない子どもたちに届けておられます。
最近では、自治体や企業からお声がけをいただくことも増えています。ある自動車メーカーからは、交換用部品の在庫だけで東京ドーム2個分ほどのスペースを使っており、古い車種の交換部品については廃棄したいので、一緒に何か考えていきませんかというお話をいただきました。自動車部品と聞くと一般の方が使うものではないので、アップサイクルしても売れるのだろうかという不安はあったのですが、部品好きの方がいらっしゃるそうです。
また、ある自治体からは、大量に廃棄されている自転車をアップサイクルできないかという相談がありました。自治体から引き取ったものを販売するのは難しいので、ふるさと納税の仕組みを活用しようと考えているそうです。ボウリングのピン、ランドセルなど企業から次々にアップサイクル案件の相談が寄せられています。それをどうやって製品に生まれ変わらせるかを考えるのが楽しいですね。
― 今後力を入れて取り組んでいきたいことを教えてください
コロナ禍で花火大会が開催できなかったため、打ち上げ時に花火玉を包んでいる玉皮を捨てざるを得ないという話を花火メーカーから聞き、これをペンダントライトにし、売上げの一部を応援の気持ちを込めて寄付しました。この事業でお金を儲けるというよりも、捨てられるものの使い道を考えて、ごみを少しでも減らすことに役立てればと考えています。
わたしたちの製品をできるだけ多くの人に見てもらい、捨てられるはずだったものが生まれ変わって、「こんなふうに使うことができるんだ」ということを、まずは知ってもらいたいと思っています。そして、一人ひとりがアップサイクルする楽しさを感じて、自身で取り組む人が一人でも多く増えればうれしいですね。今後は、捨てるものを使った工作教室を子どもたち向けに開いてみたいとも考えています。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)