廃棄物×樹脂で脱プラへの現実的な解を出す
海洋プラスチックの問題が顕在化した際には、プラスチックをすべて悪のように指弾する論調も見られた。ただ、さまざまな機能を有するプラスチックを完全に代替できる素材は当面現れそうにない。射出成形メーカーとして長年プラスチック加工に携わってきた南原氏は、脱プラに向けた現実的な解はないか模索していた。たどり着いた手法が、廃棄物をプラスチックに混ぜて製品にすることだ。
初めは卵の殻で取り組んだが、さらに新たな素材を探していた時に見つけたのがホタテガイの貝殻だった。日本一のホタテガイの水揚げ量を誇る北海道猿払村が位置する宗谷地区では、ホタテを加工する際に廃棄される貝殻が年間約4万tに上っていた。
貝殻を粉末状に砕きプラスチックと混ぜることで素材強度が3割強向上し、耐久性が高まることが確認できた。社会課題の解決に役立てたいとの思いから、防災にかかわる製品を作ろうと考え、「これまで外敵から身を守ってきた貝殻が、人を守るために生まれ変わる」というコンセプトとともにヘルメットに決まり、「HOTAMET(ホタメット)」と名付けた。
実はこれまでもホタテガイの貝殻は再利用が何度か模索されていたが、とん挫していた。その要因の一例として南原氏は「エコな製品なのだからコストが高くなるのは仕方ないという原料メーカーの言い分があった。ただ、加工メーカーからしてみれば製品化したところで高くて売れず事業化に至らなかった」ことを挙げる。
そこで貝殻粉末の原料製造と、原料をプラスチックに混ぜる加工の両方を自社で担うこととした。貝殻の配合を20%にまで高めながら壊れにくい樹脂原料の開発が可能となり、原料製造段階から生産、物流に至るまであらゆる段階でコストを下げたことで通常のヘルメットとそん色ない価格設定が可能となった。
また、デザイン面ではホタテガイの貝殻状のリブ(波型)とすることで強度を加え、デザイン性と機能性を両立。また、プラスチックに混ぜた貝殻の粉をあえて粗くして、粒が見えるようにした。「通常の樹脂製品では原料の粒を見せるのはあり得ないこと。貝殻の粒が入っているのを見せることで、捨てられるはずのものが再利用されていることに意識を向けてもらうことができれば」と話す。
HOTAMETは8月に発売予定だが、来年開催される大阪・関西万博にも採用される予定だ。その話題性も手伝って同社にはさまざまな廃棄物を樹脂と混ぜられないかという相談が寄せられているという。「社会課題の解決をめざして新たな樹脂製品をこれからも増やしていきたい」と意気込んでいる。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)