Bplatz press

鉄製フライパンでどん底からはい上がる

2022.12.07

創業者である祖父から「おまえは会社を継ぐんだ」と幼い頃からたたき込まれた。だが、大学卒業後の2003年に入社してから知った現実に打ちのめされた。「品質に関係なくひたすら値段がたたかれ、新しい商品を出してもすぐまねされる。なんやこの業界は、と」。ついには赤字が続くようになり、毎月のようにすべての銀行を回っては従業員に支払う給料をかき集めていたと苦境の時期を振り返る。

すがるように補助金を活用し、2011年に初めて出展したギフトショーでわずかな光を見つけた。それまではアルミ製のキッチン商品が主力だったが、前年に取引先からの要望で作り始めた鉄製フライパンの評判が良く、量販店、ホームセンターなどに加え、ギフトカタログやネットショップなど新規の販売先が広がった。重く、油をなじませるまでの手入れが大変というイメージが強く、家庭用では浸透していなかった鉄製フライパンだったが、あらかじめ空焼きしオリーブ油をなじませた加工方法も受け入れられた。

手ごたえを足掛かりに商品化したのが「フライパン物語」。素材(鉄かアルミ)、サイズ、外面の色、持ち手、名入れなどを自由に選んでカスタマイズできるようにしたことで定価販売が可能になった。「カタログを作るのに費用を使った程度で、既存の商品の売り方を変えただけ」と、苦境の中、最低限の投資で利益を出すことに成功した。さらにその利益を、デザイン性の高い商品開発につぎ込んだ。

東京のデザイナーに「持ち手を着脱できるフライパン」のアイデアを伝えたところ、フライパンをそのままお皿にして使える案が出され、「作ると食べるを一つに」というコンセプトを固めた。持ち手の開発だけで2年を要したが、2019年1月に新ブランド「10(じゅう)」を発売。ヒット商品に育った。

2021年2月には、工場をオープンファクトリーへと一新した。検品場だった2階を直営ショップに変え、ガラス越しに工場でものづくりの様子が見られるようにした。見られているという意識が緊張感につながり、ジーパンとブランドロゴ入りの黒いTシャツというユニフォームづくりの提案も従業員から出され、現場のモチベーションアップにもつながっている。

鉄製フライパンとともにどん底からはい上がってきた。「何もないところからがむしゃらにやってきたが、求められるレベルが上がった今の方がプレッシャーはきつい」と苦笑する藤田氏だが、フライパン市場で9割をまだアルミ製が占めており「伸びしろしかない」と自信を見せる。めざすは「鉄フライパン=藤田金属」と思ってもらうことだ。

代表取締役社長 藤田 盛一郎氏

(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)

藤田金属株式会社

代表取締役社長

藤田 盛一郎氏

http://www.fujita-kinzoku.jp

事業内容/アルミ製・鉄製キッチン用品の製造・販売