磨き抜かれた技術と肉体で産業の命綱を編み上げる
もはや肉体を使った芸術だ。数十トンの重量物を吊り上げる直径65ミリの極太のワイヤロープを、腕力の強い男が素手で豪快に編み込んでいく。ロープがこすれる「メキメキ」という音が工場内に響き、いったんバラされたワイヤロープが美しく編み上がっていく。
産業を支える命綱といわれるワイヤロープ。1964年に創業してから約半世紀、その加工に心血を注いできた。とりわけ中村工業が得意とするのが手編み加工だ。ワイヤロープの加工は大別すると機械加工と手編み加工の2種類。機械加工は容易でコストも低いが、ロープを束ねるアルミ製の玉掛部が現場作業の邪魔をする。「たとえばロープを引きずりながら歩くと段差に引っかかるし、荷物の下から引き抜くこともできないから不便」と中村社長。
一方の手編み加工は時間とコストがかかるが、現場での使い勝手は抜群だ。ロープ同士の摩擦で強度を保つ構造のため、玉掛部の引っ掛かりがないのだ。ただし、手編みには職人技が求められる。スパイキと呼ばれる鉄の棒を使って回したり、差し替えたりしながら、ストランドと呼ばれる6本のロープを均等に編み込んでいく。「素人が力任せに作業すると、ロープ全体がガバガバになる。仕上がりがまったく違うんです」。さらにストランド1本1本にバランスよく力を加え、編み込まなければ加工部の密着性が失われ、破断荷重(ロープが破壊する規格値)が変わってしまう。そうなると命綱としての使命が果たせなくなる。
手編み加工を行うには「ロープ加工技能士」と呼ばれる国家資格が必要である。同社の1級技能士は10名と全国トップクラス。半世紀の歴史で受け継がれてきた職人技は体系化された加工法として若手に継承され、産業を支え続けている。