医療を最先端技術で、楽しく効率化
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を頭に装着した瞬間、視界にレンガの通路と、鮮やかな色の花が出現。「赤い花だけを選んでください」という開発者、杉山氏の声に従って、花を指で摘むと、実際に持っているような感覚になり、思わず驚きの声が出た。
──MRリハビリソフトウエア『リハまる2』を実際に使わせてもらった素直な感想だ。
MRとは、既存のARやVRを超え、リアルとバーチャルが融合する複合現実。リハまる2も作業感は無く、ゲームをしている感覚で没入できる。パソコン画面を見ながら、「良い成績でしたよ」と、杉山氏は笑顔で教えてくれた。
リハまる2はこれまで2次元でやっていたことを、3次元で行なうことができる。特筆すべきは視界や認知領域の把握と、リハビリの双方で役立つ点だ。例えば視野を調べる場合、既存のやり方は紙ベースで対面で患者の眼球の動きを確認しながら調べる。
しかしリハまるであれば、ゲーム感覚で進められ、“注意が半分に偏っている”といった状況が漏れなく瞬時にパソコン上で判別でき、ホログラムのように浮かび上がるMRの特性上VR酔いとも無縁だ。
効率化について、リハビリの研究に加え、大学病院での臨床経験を持つ作業療法士の坂本氏に聞くと「確認だけで20分かかっていた作業が、自動化によりゼロに。その分、患者様と向き合う時間を増やせます」。実際、全体的な作業時間を6分の1まで短縮することが可能だ。
この画期的なソフトウエアが開発された理由は、杉山氏の友人が脳卒中で倒れたことがきっかけ。「お見舞いに行った時、ITを使えば相当効率化できる。患者である友人の辛さも減る」と、ピンと来たという。そこで早速、医療シンポジウムなどに、積極的に参加。関西医科大学の医師と知遇を得ることになる。
その頃、マイクロソフトがMR用のHMD『HoloLens』を発売しており、作業療法との親和性が高いと判断。医師たちの声を聞きながらソフトウエア開発に取り組み、出来上がったのが、2017年にリリースされたリハまるだ。今は、『HoloLens 2』が発売され、同社のソフトもリハまる2へとバージョンアップした。
もともと、ソーシャルゲームやVRなどの受託開発で実績を積み重ね、エンタメ系の開発に強みを持つ同社。現場を知る作業療法士が加わったことで、より精度の高い開発をスピーディーに進める環境が整ったという。今も、研究に意欲的な大学病院などからオファーが相次いで舞い込んでおり、リハまる2の進化は続いている。
目下の目標は、利益の拡大。「まだ既存事業の売上がメインを占めているので、自社開発のリハまるを収益の柱にする。将来的には海外展開や予防医療にも取り組みたいですね」という意気込みを語る。MRの医療ソフト開発での競合は皆無で、特許も出願中とのこと。エンタメで培われたノウハウが医療の常識を変えていく。
【 2025年 自社はこうなる 】
2025年の大阪・関西万博のテーマと合致する『リハまる』で、世界に挑戦。
(取材・文/仲西俊光)