エコで自由なガラス瓶の未来を町家から発信
明治28年創業の老舗ガラスメーカー・日本精工硝子が運営するショップ兼ギャラリーが船場伏見町にある。
大正時代の町家を改装したショップには約120種類のガラス瓶がずらり。蔵を改装したギャラリーでは、貴重なガラスの歴史に触れることもできる。
日本精工硝子は、大手化粧品メーカー各社の化粧品容器を長年受注してきた経験から、透明度が卓越して高く、高級感のあるガラス瓶の生産技術・品質・デザインに自信をもつ。
化粧品容器のプラスチック化が進むなかでは、その技術を活かしてジャムやオイルといった高級食材の容器に事業の主軸を移した。
小ロット生産にも対応し、オリジナルのガラス瓶をつくって用途提案をするなど顧客開拓に取り組んでいる。
社長の小西氏は、入社式になると「自宅にガラス瓶がいくつあるか数えてきてほしい」と新入社員に伝えるのだが、6年前にゼロと答える新入社員がいた。
「家にガラス瓶が一つもない社員が入社してきた現実にハッとしました。これが当たり前になったらガラス産業は絶滅してしまう」。
そんなとき、叔母が長年住んでいた町家を日本精工硝子のアンテナショップにするアイデアが浮上。
「うちの多種多様なガラス瓶は工芸品のように美しいだけでなく、100%社内リサイクルができるので環境にも優しい。直接見ていただける場所をつくって、多くの方にガラス瓶の良さを再認識してもらいたい。ガラス産業を衰退させないために、1日1社、1人でいいからガラス瓶のファンをつくりたい」という想いが湧いてきた。
社内には当初、「中身のないガラス瓶が興味をもたれるわけがない」という意見が多かったが、オープンから2年半経ったいま、ガラス瓶の可能性に触れながら、その用途を自由に思い巡らすことができる空間は評判を呼んでいる。
遠くから足を運ぶ顧客も増え、「ガラス瓶っていいですね」という生の声は社員の励みになっているという。
「自分でつくった食品や作品を透明感のあるきれいな瓶に入れて、みんなにあげたい、見せたいと思う方や、エコで丁寧な暮らしをめざす方からガラス瓶は注目されています。ガラス瓶を通して、お客様とコミュニケーションがとれるのが実店舗の魅力ですね」と話す小西氏。
ショップでは、ハート形の瓶に入った酵母エキス使用のオリジナル化粧品も販売している。
「いいと思ったことにはどんどん挑戦していきたい。いまこそ、ガラス瓶の可能性を広く発信する絶好のチャンスだと感じています」。
(取材・文/花谷知子 写真/三原李恵)