《講演録》社運を賭けた単品勝負戦略!〜八天堂のくりーむパンを愛され続ける商品にするまで〜【後編】
《講演録》2019年11月6日(水)開催
【トークライブ!】社運を賭けた単品勝負戦略!
〜八天堂のくりーむパンを愛され続ける商品にするまで〜
株式会社八天堂 代表取締役 森光 孝雅氏
駅の構内や百貨店で目にすることの多い「八天堂のくりーむパン」。昭和8年創業の八天堂は、現在全国に店舗を構え、さらにはアジアを中心とした海外展開も積極的に行っている。一時は倒産の危機も経験した森光孝雅氏が、「くりーむパン」を生みだすまでの経緯と、その中で生じた経営者としての考え方の変化について語った。
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《講演録》社運を賭けた単品勝負戦略!〜八天堂のくりーむパンを愛され続ける商品にするまで〜【前編】
♦こだわりのパンを求める郊外のニーズに応えてV字回復
社員や家族といった今までお世話になってきた人たちに対して、「申し訳なかった、恩返しがしたい、何か役に立ちたい」という気持ちが芽生え、私の態度や姿勢にも変化がでてきたのか、背を向けて私から離れていった皆さんが手を差し伸べてくれるような感じがありました。
そんなときに、県内の郊外地域の方からこだわりのパンが手に入らないという話を耳にしたのです。実際に現地に行って確かめてみると、確かに周辺には小型スーパーとコンビニしかなく、焼き立てのパン屋はありませんでした。
そこでその地元のスーパーに天然酵母のパンを売り込んだところ、すぐに取扱ってもらえることになりました。これは需要があるぞと、片っ端から色々なスーパーに営業を行いました。やがて小型スーパーだけではなく、大手量販店にも取り扱ってもらえるようになり、結果として3年間程度でV字回復することができました。
♦新たな方針は選択と集中、捨てるために誠意をもって取引先に頭を下げた
しかし、V字回復できた頃には、すでに量販店さんのところにも、地元のパン屋や中堅・大手のパン屋が参入してくるようになっていました。再びどん底に陥る前に次の方針を、と新たな模索を始めました。
ちょうどその頃、群馬の洋菓子店ガトーフェスタハラダさんのように高付加価値商品で首都圏での成功をおさめる事例が増えてきていました。同じ三原市内にある和菓子屋の共楽堂さんも、『ひとつぶのマスカット』で東京に進出して大好評を博していました。共楽堂さんの代表は私の中学時代の後輩です。自分がよく知る彼の成功に勇気づけられました。
問題は、当時私たちのパンは100種類くらいあったものの、“これ“という商品がないことでした。一品勝負をするのなら、そこに経営資源を集中するために他をやめるという覚悟が必要です。それでも、私は覚悟できました。製造小売業として13店舗までパン屋を拡大し、卸業としても小型スーパーから量販店さんまでを開拓したというやり切った自負があったからです。自分の力でやり切って後悔がなかったからこそ、覚悟を決められたと思っています。
V字回復でお世話になった量販店さんに、取引を中止させてほしいと告げ誠心誠意謝りました。「客をなめている」「道徳に反している」と相当厳しいことも言われましたが、もし、あの時逃げるように去っていたら、今ここに私は立っていないでしょう。誠意を示したからこそ、地元の皆さんはその後も応援し続けてくれました。
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