フォトグラファーと小学校講師のパラレルワーク
「ニューボーンフォト」とは、生後まもない新生児を撮影した写真。ニューボーンフォトグラファーの柴田氏が起業した3年前は日本での知名度は低かったが、いまや出産を控えるママ達から熱い視線が注がれる記念撮影だ。
二児の母親でもある柴田氏には、産後の辛い経験がある。1日に続けて1時間ほどしか寝てくれず、抱っこしないと泣き続ける子どもの世話に疲れ、一緒に泣いた日々。学生時代からカメラが好きだったのに、わが子の生後1カ月の写真がまったく残っていなかった。
その後、わが子を撮影した写真が数々のフォトコンテストで受賞したことに自信もつき、出産後の大変なときに、自宅で新生児を撮影するお手伝いをしたいと考えるようになった。「ママ達の癒しの時間になるような撮影を行い、一生の宝物になる写真を届けたい」。
柴田氏は民間企業などで働き、30代で小学校教諭になった。とてもやりがいのある仕事だったが、月1回の通院治療のため学級担任でなくなったことを機に、温めていたニューボーンフォト出張撮影サービスを起業することを決意。退職して起業の準備を進めるも、すぐに見通しが立つわけでもなく、心中は不安でいっぱいだった。
そんなときに退職した小学校からの声がけもあり、副業ができる講師として小学校に戻ることに。「1年ごとの契約更新ですが、新任教諭の補助をはじめ、週10時間の授業をもつことになりました」。こうして、ファトグラファーと小学校講師という複数の仕事をかけもつ、パラレルワークがスタートした。
年間300人以上の新生児を撮影している現在も、パラレルワークを続ける柴田氏。そのメリットは、安定した収入が一つあることで、心の平穏が得られることだという。いまでも撮影依頼のない日が続くと落ち着かない。
「私の場合、公務員を辞めて起業することや、パラレルワーカーになることに家族が理解を示してくれたことは大きかったですね。どちらの仕事もしっかりやるように言われたことが、逆にモチベーションになりました」。
起業当時は、ニューボーンフォトに特化することを心配する声もあった。「ニューボーンフォトに需要があることは確信していました。パラレルワークを選択したことで、迷いなく専門性を際立たせることができ、一足先にこの世界に飛び込んだ強みは大きいです」。
ニューボーンフォトグラファーも、小学校講師も、どちらもコミュニケーション力がとても大切な仕事だという柴田氏。小学校では、日々の子ども達との触れ合いや保護者への対応の積み重ねが、自身のコミュニケーション力の向上につながっている。
「ニューボーンフォトには撮影技術はもちろん必要です。でも、それ以上にママ達の意向に添いながら、撮影に対する不安をなくしたり、新生児をうまく寝かしつけたり、楽しく撮影できる雰囲気をつくるなど、現場でのコミュニケーション力が何より大事なんです」。
ニューボーンフォトのワークショップはすでに十数回開催しており、セミナーの依頼も増えた。
「私は教えることが好きなんですね。ニューボーンフォトグラファーが増えても、それ以上にニューボーンフォトに興味をもつママ達が増えれば大丈夫。将来は、ニューボーンフォトが産後の恒例行事になればいいなと思っています」。
(取材・文/花谷知子)