本業の技術を生かした新商品開発 ユーザーの声から生まれたパイプを使った組立式ラグビーゴール
創業50余年の株式会社高永化学は、樹脂パイプに特化した専門メーカー。旗や垂れ幕などPOP用品、日用品などのパーツを供給している。高度経済成長の波に乗り成長を謳歌するも、バブル崩壊。プラスチック成形は安価な海外にシフトし、1997年には売上げは半減。父親が始めたこの会社に、高橋さんが加わったのはその少し後だった。
先代が足で稼いだ受注を守りながら、高橋さんはインターネットによる新規需要開拓に注力。豊富な金型を保有する強みを生かした希望サイズ・小ロット対応を打ち出すことで全国から問い合わせが入り、業績は回復。現在では受注の7割はネット経由だという。
社員も増やし、前途に明るさが見える同社だが、新規客で売上げが増える以上に既存客が減少し、3年前に赤字を計上。「このままではいずれダメになる」と、高橋さんはホームページの強化をめざしてコンサルタントの門を叩いた。
「提案されたのは、新たな柱づくりでした」。
そして、立ち上げたのが自社商品販売サイト「パイプファクリー」。しかし、インテリア用キット、屋台セット、キャットタワーなど開発はトライアル&エラーの連続。誰もが驚く新製品ではなく、「お困りごと」に対応するニッチな方向へと高橋さんの狙いは定まっていく。胸にあるのは「絶対に社員の雇用は守る」という強い意志だった。
そんな高橋さんに「パイプを使って組立式のミニラグビー用のゴールを作ってほしい」というオファーが舞い込んだ。2019年ラグビーW杯の開催が日本に決まったこともあり、ラグビーの体験イベントの開催が増えてきた。それを盛り上げるツールとして、組立式ゴールが欲しいというものだった。サッカーやバスケットボールでは珍しくないミニチュアのゴールだが、ラグビー版は日本国内で流通していなかった。
初期費用を抑えるために既存のパイプを調達し、携行可能なように短くカット。見栄えのするカラーリングにも工夫。苦心したのはポールを自立させる土台づくりだったが、現場での水注入方式で軽量化も併せてクリアできた。
昨年春に発売を開始した組立式ミニラグビーゴールは、ラグビーワールドカップを開催する自治体やイベント会社などから受注が入り、高橋さんは手応えを感じている。
「新事業は始まったばかり。アイデアを出し合う会社にして、お客さんから喜ばれることを社員に体験してほしい」。
次の一手は、経営が安定しているうちに打て。この鉄則を、同社のチャレンジが体現している。
(取材・文/山蔭ヒラク)
★パイプファクトリーのHPはコチラ(http://pipe-factory.net/)