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【あぁ、麗しのファミリービジネス】Vol.16 ファミリービジネスが日本の未来を救う

2015.05.11

私がかねてから「ファミリービジネス押し」なのは、マインド論からだけではありません。
資源がない小さな島国NIPPONにとって、ファミリービジネスはもっとも経済合理性が高い経営スタイルだからです。

それはなぜか。
答えは簡単。「経営者の存続への執念がハンパないから」です。

考えてみてください。

1.自分で苦労して働いて貯めたお金でようやく買った最先端の腕時計
2.デザインはめちゃくちゃ古臭いけど、先祖代々受け継がれた腕時計

あなたなら、どっちの時計をリサイクルショップに売り払うのに抵抗がありますか?
私は生きるか死ぬかギリギリの状況に陥るまで、先祖から受け継がれた腕時計は絶対に売りたくない。

苦労して買った最先端の腕時計もちょっと惜しいけど、自分だけの苦労が問題ならそれほど逡巡しません。でも自分の先祖が苦労して護ってきた時計だったら。。。

腕時計なら頑丈な金庫にしまっておけば護ることはできるかもしれないけど、会社は生き物。生かすも殺すも経営者次第です。

そして、経営者に「絶対に存続させる」という執念があると、あらゆる経営判断が長期的な視点に立って行われます。すると結果的に生まれるものがあります。

【◆イノベーション】

企業が生き残るために、世の中に必要とされ続けるために、イノベーションが生まれます。
刻々と変化する時代の中で、企業も新しい挑戦を続けないと生き残れません。
ファミリービジネスの場合、注目すべきは挑戦のスタイルです。

ファミリービジネスは存続最優先なので、会社が潰れてしまうかもしれないリスクの大きな挑戦はしません。空振りするリスクをとってホームランを狙って振り抜くのではなく、バントを重ねて手堅く点を重ねる戦略です。

先代から受け継いだ経営資源に、経営のバトンを渡された後継社長が新しい風を吹き込むことで新しい価値を世の中に生み出す。
「今すでにあるもの」を進化させることが得意な日本人の国民性も手伝って、ファミリービジネスの多くがたくさんの新商品や技術革新を生みだしてきました。

確かにグーグルやアップルみたいなイノベーションは日本で生まれていないかもしれません。
でもファミリービジネスによる小さなイノベーションは、日々ものすごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーくたくさん生まれているのです。

【◆会社に関わる人々のハッピー】

ファミリービジネスといえば、親子の小競り合いで話題になったO家具や会社の資産をカジノですったD製紙の御曹司など、とかくネガティブな側面ばかりクローズアップされますが、実はファミリー企業は「非ファミリー」企業よりも業績がいいという調査結果が出ています。(※)日本だけではなく、世界各国のファミリービジネス、さらには上場企業も対象にした調査です。

興味深いのは、米国の不況期下での「ファミリー企業/非ファミリー企業」の比較。ファミリー企業は、利益を大幅に減らしながらも雇用や売上げを拡大します。

なぜならファミリービジネスは存続最優先。
存続するために、会社をとりまくすべての人(社員、社員の家族、仕入れ先、顧客、地域)と長期的な視点で信頼関係を築きます。
彼らとの良好な関係がないと企業を存続させることができないことが代々語り継がれています。

一方、株主優先で短期的な利益を捻出しなくてはいけない非ファミリー企業は、リストラを余儀なくされます。すべての経営判断は「効率」なのです。

社員の立場に立って考えてみてください。
不景気になったら簡単に社員をクビにする会社と、不景気でも護ってくれる会社と、どちらで頑張れますか?って話です。
平時の業績の違いに影響を与えるのは言うまでもありません。

要するに「企業の存続」をベースにした経営判断は、その会社を取り巻くすべての人々のハッピーも実現するのです。

実はいま、効率最優先でM&Aが主流だった米国でも、ここへきて安定的な業績を実現するファミリービジネスの価値が見直され、徐々にその数が増えてきています。
一方、ファミリービジネス大国だった日本は後継者不在の企業が急増。同族継承もこの10年で6割に激減して、欧米型のM&Aが増えています。
ええ、日本がうっかり米国型の効率経営の真似っこしてる間に・・・これって本当に恐ろしいことです。

日本の企業存続力は日本の競争力の礎です。
日本の社会のためにも、家業の経営のバトンを引き継ぐ後継社長を応援する国であってほしいと切に願います。

(出典)
(地域経済活性化要因実態等調査(地域経済におけるファミリービジネスに関する調査等事業))報告書

事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会 中間報告

yamano

【筆者Profile】
大阪産業創造館 山野 千枝
本紙「Bplatz press」編集長。
数多くの中小企業を取材する中で、家業を受け継ぎ、事業を展開する経営者の生き様に美学を感じる一方、
昨今の後継者不在問題を憂いて「ファミリービジネスの事業承継」をテーマに
現役の後継社長とともに関西学院大学、甲南大学、関西大学で教鞭をとる。
実家も四代続くファミリービジネス。