産経関西/産創館広場

精度高い測定で風評被害減少を

2015.04.20

甚大な被害をもたらした東日本大震災及び福島第1原子力発電所の事故から4年が経過した。被災地域では徐々に産業の復興が進みつつあるが、農業の復興は土壌汚染や風評被害など、まだまだ多くの課題が残されている。発生当初、被災地域産の農作物から基準値を超える放射性物質が検出され、その影響により、周辺の基準値に満たない農産物も風評被害にさらされてきた。これらは、農業関係者の方々にとって大きな打撃となっており、その解決のためには、正確な放射線量の把握と生産者、消費者の認識改善が求められている。

そんな中、簡易に放射線量、放射能濃度の測定を可能にする機器「ポータブルベクレルカウンター」を開発したのが、新日本電工株式会社(大阪市北区)。これまで特殊機器のOEM(相手先ブランド生産)を中心に、検査、計測装置の開発、製造、販売を手掛けてきた同社が2012年に科学技術振興機構(JST)の「先端計測分析技術・機器開発プログラム(放射線計測領域)」に採択され、大阪大学、三重大学などとの共同開発で完成したのが「ポータブルベクレルカウンター」だ。

これまで放射線量や放射能濃度を計測する場合、専門の研究機関や行政施設など、計測機器を持つ施設に測定物を持ち込む必要があり、その結果が出るまで1週間以上の日数を要することもあった。

さらに、測定物を事前に粉砕、乾燥する必要もあったが、この装置は、測定物を加工せず、そのままケースに入れて、数分から数十分で測定ができ、また、バッテリー駆動を実現し、あらゆる場所での計測も可能になった。

開発中は、被災地域に試作機器を持ち込み、さまざまな農作物や土壌を測定。計測精度を高めるために、既存の計測機器との数値比較を幾度も重ねてきた。産業用計測装置や小型電子顕微鏡の開発で培ったノウハウを生かし、小型で精度の高い計測機器を実現した。

放射性物質や放射線量に対する農産物の風評被害は、生産者と消費者双方の正しい理解があって、初めて軽減される。近い将来この機器が生産者と消費者の「架け橋」となるように普及してほしいと願っている。

(大阪産業創造館 プランナー 田中良典)

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▲「ポータブルベクレルカウンター」を開発した遊免秀二技術部課長

 

新日本電工株式会社