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【長編】家業から企業へ、まちの文具店はどう生まれ変わったのか。

2014.01.09

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18歳で家業を手伝い始めた当初、継ぐ意識はまったくなかった。ところが入社2年後に会社が経営危機に陥り、「なんとかせなあかんと思った」。そこでパソコンを1台購入し、楽天市場に出店、経営の立て直しに奮闘することになった。「ほぼ第二創業」と自ら称して経営を続けてきた岸井氏。ネットショップを軌道に乗せるまでの苦労、経営で直面した問題、ネットとリアルを融合させた今後のビジネスモデル構想などについて聞いた。

 

〉〉〉家業に入られたきっかけを教えてください。

記録に残っている当社の創業年は1926年で、紙問屋としてスタートしました。その後、時代とともに紙だけでなく、文房具も扱うようになって現在に至ります。私の父は5人兄弟の末っ子で、兄弟のうち3人が当社の経営に携わりました。父は兄弟3人のうち3番手として、1999年に経営を引き継いでいます。実際の創業年も含めて、父が何代目なのか正確にはわからないのが正直なところです。

私は、父が社長に就任するのとほぼ同時期の1998年、18歳で仕事を手伝い始めました。とはいえ、当時はまったく継ぐ気はなかったんです。気づけば配達車の運転手役を引き受けて、企業から注文を受けたコピー用紙や文房具を父と一緒に運んでいたという感じですね。重いものを運ぶ仕事はカッコ悪いと思っていたし、何より文房具に興味がなかったので仕事自体がいやでした。というより、まだ10代ですから(笑)。当時はとにかく遊びたい気持ちのほうが強かったです。

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〉〉〉ネット通販に早くから取り組まれています。

仕事に身が入らない状況からの転機は入社2年後の2000年です。取引先が少なくなり、経営危機に陥ったんです。当時の売上は、法人営業と店頭販売の2つで成り立っていました。その2つの事業がともに急減速してしまったんです。父から直接、経営状態を聞かされたわけではなかったですが、顔を見ていれば相当ヤバい状況だというのはハタチの私にもわかりました。「何とかせなあかん」――父の姿を見て、仕事に興味のなかった自分でも危機を感じました。

そこで始めたのがネット通販です。経営が傾いていたので、できる限り少ない資金で始められる事業でなければなりませんでした。その点、ネット通販なら、パソコンがあればできるだろうと考えたわけです。このとき、1台のパソコンを買って動き出したのがすべての始まりですね。

 

〉〉〉当時はまだインターネットでモノを買う人は少なかったのでは?

そうなんです。そもそも私自身、HPのつくり方さえよくわからない状況でした。最初はHTMLやCGI言語を自力で覚えてHPを制作しようと試みたんですが、難しすぎて断念しました(笑)。そんなとき、コンビニで立ち読みしていたビジネス雑誌で楽天市場の存在を知ったんです。これなら自分でHPを立ち上げる必要はないと思い、2001年2月に出店。当時、文房具店はうち以外に1、2店舗しか出店していませんでした。図らずもネット通販の黎明期に参入できたのは幸運でしたね。

とはいえ、ネットで商品を買う人は少ない時代です。最初はまったく売れませんでした。まるで砂漠に商品を並べているような状況です。1日のアクセス件数がゼロという日があったほどですから。それでもやればやるほど売上は伸びていき、3年目には安定した収益を上げられるようになりました。現在も実店舗を展開していますが、いまでは年商5億円のうちネット通販が売上の9割以上を占めています。

ただ、ネット通販を軌道に乗せられた理由の一つは、先代から長きに渡って取引を続けてきた仕入ルートがあったからこそまったくのゼロから文房具のネット通販に参入するのと比べると、格段に有利だったはずです。

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〉〉〉代表になられたのは?

2008年、28歳のときです。実質的にはそれ以前から自力で会社の立て直しを図っていました。ネットショップの立ち上げもそうですし、銀行借入や資金繰りも含めてすべて自分でやっていました。会社というハコとモノは継いでいますが、ほぼ第二創業のような感じですね。

長年お世話になっていた税理士も替えることにしました。私が小学生の時から知っている人です。でも会社を立て直すためにも避けては通れない決断でした。

会社の歴史を感じる機会はよくあります。たとえば同業の先輩方と話をすると、「あのとき、おたくの先代に助けてもらってありがたかった」など、私も知らない先代や先々代の話を聞かせてくれたり。周りの方々の話を聞いて、当社の歴史の重みを感じます。

 

〉〉〉会社を軌道に乗せるまでの一番の苦労は?

経営資源の人、モノ、金でいうと、人とお金で苦労してきましたね。なかでも一番しんどかったのは「人」です。いま社員は21名いますが、私自身、勤めた経験もなければ、人を雇った経験もありません。だから社員とどの程度の距離感で接したらいいのかわからなかったんです。友だちのように近い存在になればいいのか、ビジネスライクに距離を置けばいいのか。誰も教えてくれる人もいませんし。雇う人は自分より年上の人が多かったので、余計に距離のとり方が難しかったです。正直、何人もダメにしてきました。

社員とうまくいかなかった理由の一つは、任せ方でした。事業のことは自分が一番わかっているので、仕事を任せても、つい口出ししてしまうんです。でも、いまは任せ切る方針に切り替えました。「なんでそんなことができひんのや」と思うこともありますが、その思いは飲み込んで、「なんでそういうやり方をしたの?」とコーチングをするようなスタイルでやっています。この数年、頭ごなしに叱ることはなくなりましたね。いまは信頼できる管理職のスタッフが育ってきてくれています。

 

〉〉〉中国でもビジネスを展開されています。

2011年に上海にネットショップの制作をアウトソースするためのオフショア拠点を設立しました。そして2013年には中国最大のショッピングサイト「タオバオ」に出店し、中国でのEコマースもスタートしました。日本の文房具を中心に中国市場に販売しています。

中国のネット販売は、やればやるほど売上げが上がる状況です。まるで楽天市場に出店して軌道に乗せるまでの経験をもう一度、中国で再現しているような感じです。中国はもうモノづくりの国じゃないですよ。物流面が課題といえばそうですが、広大な中国国内、だいたい届きます(笑)。ひと昔前と比べるとずいぶん改善しているはずです。

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〉〉〉ネット販売が売上げの多くを占めていますが、実店舗も展開されています。

ネットとリアルの融合です。ひと昔前、インターネットと実店舗を連携させるスタイルが注目されましたが、実際にはうまく機能している会社は少なかった。私は、これからいよいよ始まると考えています。

楽天市場に出店して13年経ちました。当時は珍しい取り組みとして注目を集めましたが、いまはネットで文房具を販売するのは当たり前の時代です。そこで検討しているのがネットと実店舗を融合させたコンセプトショップの展開です。そのために2014年以降に店舗を移転する予定です。

コンセプトショップのテーマは、「パーソナル対応と体験」です。店舗で自分オリジナルの商品をつくり、その体験をネットでシェアする。いま自社のロゴが入ったオリジナルのクリアファイルや、表紙や中紙の種類、バンドの有無など自分でカスタマイズできるノートなどのオリジナル商品を開発しています。店舗に来店してもらい、自分だけの商品をつくってもらい、その体験をネットでシェアしてもらう。モノの販売だけでなく、体験型のサービスも一緒に提供していきます。

これからの時代、既存商品をネットで販売しているだけでは生き残れません。小売店である自分たちもメーカーにならないといけない。ネットと実店舗の融合により、お客さんが本当に求めている商品とサービスを開発していきたいと思っています。

実店舗を残す理由はもう一つあります。当社は昔から実店舗での商売を軸にしてきました。だから創業精神を受け継ぐ意味でも、実店舗は残したい。福島にある創業の地も物流拠点として残しています。ここは当社の歴史が始まった場所。この場所はこれからも動かしません。

 

▼Bplatz press 2月号本紙に掲載された記事はコチラから
https://bplatz.sansokan.jp/archives/1754

 

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▲上記イベントは終了しました。ありがとうございます!

有限会社ワキ

代表取締役 

岸井 祥司氏 

http://www.rakuten.ne.jp/gold/bunguya/

創業1926年の老舗文房具店。実店舗の運営と共に楽天市場にネットショップを展開。