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新聞記者から跡取り娘への転身、先代が見守る後継者への道

2014.01.09

「会社を継いでほしいと父から頼まれたことは、いまだに一度もないんです」。自ら〝跡取り娘〟と称して、家庭用収納用品メーカーである家業の経営に奮闘する香予子氏は言う。「自分の人生、自分の好きな道を歩め」。そんな教育方針で育ち、大学卒業後は大手新聞社に就職。

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「家が商売をしている反動から、お金ではない価値の仕事をしたい」と思い、「正義」を軸に新聞記者の道を選んだ。夢はかなったが、ハードワークで挫折を経験。辞めるかどうか迷っていたところ、体調を崩した父親から「会社を手伝ってほしい」と声をかけられた。「この先会社をどうするにしても、身内が社内にいるのといないのとでは外からの見え方や事業の方向性が変わりますから」。

父親で二代目社長の康雄氏は当時を振り返るものの、後継者のつもりで呼びかけたわけではなかった。
「中小企業の経営は大変なんです。リスクを理解した上で、経営者になる覚悟を決めてもらわないと」。そんな父の思いとは裏腹に、「全面的にプラスに受け取り、いきなり会社を継ぐといって周囲を驚かしました(笑)」。

しかし、いざ入社すると、静まり返った社内の空気に戸惑う。父親のトップダウン経営による社員の受け身の姿勢が気になった。「うちは企画力が勝負のビジネス。ボトムアップでアイデアを吸い上げるため、2週間に一度、開発会議を開くことにしたんです」(香予子氏)。社員の反発を覚悟したが、娘の方針を理解した現社長はこう通達する。「会社の方針が変わった。これからは頭を切り替え、自分で考え仕事をしてほしい」。

現在は世代交代の真っ最中。香予子氏が三代目として実質的な経営の舵取りを行いながら、康雄氏がバックアップしている。親子二人三脚、事業承継の道のりは続く。

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跡取り娘が受け継いだのは創業来の経営理念

ボトムアップの組織へ変革するため、新たに始めた開発会議。毎回、生活に密着したアイデアが集まる。その一つが「キッズラック」。小学1年の子どもがいる男性社員の発案で、玄関に散乱しがちなおもちゃをまとめて収納できるラックを開発した。

2011年にはフェイスブックに会社のファンページを開設。商品の活用方法や開発秘話などを紹介している。「目的は会社のブランディングに加え、消費者との交流」。そう語る香予子氏は自身の経営者としての軸を定める過程で、「アイデアと技術で、暮らしを豊かにする」という創業来の経営理念にたどり着いた。「消費者の声を活かした商品を世に送り出していきたい」と力を込める。

一般的に、先代がなかなか後継者にバトンを渡さないなど、継がせる側のスタンスが原因で事業承継がうまく運ばないケースが多い。しかし康雄氏は、香予子氏への世代交代を早い段階で内外に公言し、組織運営、銀行との折衝など経営者としての現場をほぼ任せている。「確かにさびしい気持ちはある。でも私のやり方は時代に合わなくなった。企業存続のために必要なこと」と潔い。

香予子氏も「経営者としての覚悟はしているつもり」だが、「父や周りの経営者からまだまだ甘っちょろいと叱咤激励されることも多い」と言う。社員との関係で悩んでいたとき、親しい経営者から慰めよりも鋭い指摘を返され、「原因は内にある」と気づかされた。そんな娘に対して父は「彼女は焦り過ぎる。ものには時間がかかると知ってほしい」とエールを送る。

「やりたいことがいっぱいある」という香予子氏は、「まずチャレンジし、ぶつかりながら軌道修正していくタイプ」と自ら分析する。「夢を大きく持つのは大事。でも現実も見ながら手堅くやってほしいですね」。康雄氏は苦笑いを浮かべるものの、見守る姿勢を貫く考えだ。

「父から娘へ託された経営者という名のバトン」ロングインタビューはこちらから
https://bplatz.sansokan.jp/archives/1640

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▲上記イベントは終了いたしました。ありがとうございます!

平安伸銅工業株式会社

代表取締役 笹井 康雄氏/専務取締役 笹井 香予子氏

http://www.heianshindo.co.jp/

設立/1953年 従業員/23名 事業内容/1953年創業、収納用品の老舗メーカー。とくに突っ張り機構を取り入れた家庭用の収納用品に定評がある。