スタッフ連載

Vol.23 大阪市のハード系ものづくり産業の根幹を成す“鉄鋼業”や関連分野の集積が厚い「大正区」

2020.03.17

 
本シリーズのvol.17では、大阪市のものづくり産業で集積が最も厚い業種が金属製品であることを示した上で、各区における金属製品業のシェアを見ると、港区のシェアが事業所数、従業者数ともに4割以上と突出して高いことを指摘しました。

それでは、金属製品を作るために必要な材料は何でしょうか?その原材料を提供する業種は鉄鋼です。そこで今月は鉄鋼業に着目して分析します。

 
大阪市のものづくり産業(産業中分類は全24業種)における鉄鋼業のシェアは概して高い方ではなく、事業所数:3.8%、従業者数:4.9%、製造品出荷額等:11.4%、粗付加価値額:6.8%(工業統計調査・平成29年より)と、出荷額等を除くとほぼ平均的水準に過ぎません。

ところが、大正区は鉄鋼業のシェアが突出して高く、事業所数:19.6%、従業者数:33.6%、製造品出荷額等:64.7%、粗付加価値額:47.5%であり、業種別では事業所数(金属製品:23.2%)を除いてトップです。

他方、鉄鋼業に関して区別に比較したところ、大正区は、事業所数でこそ西淀川区:39に次いで33と第2位に甘んじていますが、それ以外は突出して高い集積を誇っています(表1)。その一つの理由は、東証一部上場企業が1社あるためですが、従業者数は約500名で、区全体の3割以下に過ぎません。

 

表1 鉄鋼業の事業所数が多い上位10区における鉄鋼業の集積状況

出所:経済産業省「工業統計調査」平成29年

 
冒頭で、港区には金属製品業に特化している特徴があることを述べましたが、そこでの原材料の少なからぬ割合が大正区で生産されているのではないでしょうか。こうした産業の関連性を簡単に分析してみます。

 
ものづくり産業は産業中分類では24業種に分類されますが、鉄鋼業を基点として、関連性の強そうな業種を抽出してみますと、金属製品、はん用機械器具製造業、生産用機械器具製造業、業務用機械器具製造業の4業種となります。

鉄鋼業を合わせたこれら5業種は、ものづくり産業における“ハード系BtoB産業(以下、「ハード系B2B産業」)”として括ることができそうなので、本稿ではそう呼ぶこととします。

 
そこで、市内24区について、鉄鋼業の事業所数シェアが大阪市全体の3.8%以上となる7区を抽出し、“ハード系B2B産業”の5業種に関する事業所数のシェアを累積させて比較してみました(図1)。

 

図1 事業所数のハード系BtoB産業の累積シェア

注:各区における鉄鋼業の事業所数シェアが全市平均(3.8%)以上の区抽出し、鉄鋼業のシェアが大きい順に並べている。
出所:経済産業省「工業統計調査」平成29年

 
この結果、7区中、4区(港、西、大正、西淀川)でハード系B2B産業の合計シェアが、区全体の2/3~3/4を占めていることが判明しました。このうち、港、西、大正の3区は互いに区境界を接していることから、関連性の強い産業クラスターを形成しているものと推察されます。

さらに、本シリーズのVol.9では、卸売業について分析し、西区が鉄鋼製品と産業機械器具に関して、事業所数と従業者数でトップにあることを示し、西区が産業用機械分野において製品と金属材料を提供するビジネスに特化した卸売業集積地であることを指摘しました。

 
こうした結果を総合すると、大正、港、西の3区は、ハード系B2B産業に関して、原材料生産⇒部品製造⇒最終製品の製造/販売といった役割分担がおおよそ出来上がっており、川上から川中、川下に至る強固な産業連関構造が形成されたエリアとして捉えられましょう。

 
(取材・文/大阪産業創造館 徳田裕平)

 

大阪産業創造館 徳田裕平
建設コンサルタント会社やシンクタンクを経て、縁あって旧・大阪都市経済調査会の事務局長に就任。
大阪市をどうやって元気にするかをテーマに日夜、調査・研究に励む。