産学のタッグで次世代半導体に欠かせないレーザー技術を確立

2020年から世界中で次世代通信規格、5Gの運用が本格化する。これを可能にするのがさまざまな通信機器、媒体に組み込まれた高性能半導体デバイスだ。

スペクトロニクスは、電子回路を高密度化した半導体デバイスの製造過程で欠かせない微細化技術を支える深紫外線レーザー発振器で世界の先頭を走っている。

 
レーザーを使った微細加工技術が求められる時代を見越して10年前に同社が定めた開発テーマが「短パルスかつ短波長」のレーザー発振技術。

波長が短いほど光子当たりのエネルギーは強くなり、しかもより小さい穴が開けられる。加えて、非常に短いパルス幅と波長の非常に短い深紫外線を併せ持つレーザーは、長波長の赤外線のように熱で溶かすのではなく、原子の結合に関与する電子を飛ばすことで材料を分解し加工するため、バリや酸化(焦げ)が生じることがない。

より精度を高める短パルスでかつ長中波長領域のレーザー発振技術はすでに開発されていたが、「短パルスと深紫外線化の両立は不可能」というのが世界の“定説”。「顕在化しているニーズで既存企業と勝負してもそこに入り込むのは難しい。他社がやらない将来のニーズにあえて挑んだ」と岡田氏は気概に満ちている。

 
そのチャレンジに弾みをつけたのが大阪大学の森勇介教授との出会いだ。レーザーが発するのはそもそも赤外線で、これを高出力のまま深紫外線に波長変換するのに欠かせない非線形光学結晶(CsLiB6O10)を1993年に発見したのが森教授だ。

「深紫外線領域では無理」という根拠は、効率良く波長変換により紫外線レーザーを発生できる波長変換結晶が存在しなかったためだが、森教授の発見によってそれが原理的に可能になった。

さらに、高出力の紫外線レーザーは何でも加工してしまうため、非線形光学結晶(CsLiB6O10)をも加工してしまうという問題があったが、「結晶をより丈夫に鍛えるために改良を重ねてきた」(森教授)ことで壊れない結晶ができた。

岡田穣治氏(左)と森勇介教授(右)

 
この出会いとは別に、スペクトロニクスは独自に微細加工用レーザーの開発を進めていた。当初は従来技術を踏襲した短パルスの赤外線レーザーを完成させていたが、いざ加工実験をしてみると従来機器とさほど変わらない結果に落胆した。

その後、社内でさまざまな得意分野を持つ開発担当者を集めて議論をし、発振源となる種レーザーに半導体レーザーの過渡応答という厄介な現象を逆手に取って使うというアイデアが生まれた。

半導体レーザーから出るレーザーパルスはパワーが小さすぎてだれも見向きもしなかったが、光通信技術を得意とする技術者から、半導体レーザーは条件によって最初に大きなパワーを持つレーザーパルスを出す事があり、光通信では忌み嫌われて来たことを聞かされたことがヒントになった。

 
このヒントに更に森教授との出合いによって波長変換結晶技術を有効活用するアイデアが融合し、「森教授の結晶技術を最大限に生かす」ためのレーザー開発が始まった。「開発のベクトルをみなで共有できていたからこそ出てきたアイデア」と岡田氏は振り返る。

 
以降、レーザーを増幅する技術、増幅した時に波長が乱れないように出力時の波長をそろえる技術を確立し、ようやく実用化できるレベルに達した。

半導体の微細化に欠かせない技術であるため世界の名だたる半導体関連メーカーから引き合いの話もあり、昨年は第8回ものづくり日本大賞を受賞。「当社の資源には限りがあるので、より効果のある出口を見極めながらキラーアプリケーションを選別したい」と語る。

創業間もないころ、祖母宅の6畳の仏間にあったちゃぶ台の上で自前のレーザー発振器開発に取り組んでから15年余り。サクセスストーリーの幕がようやく上がろうとしている。

第8回ものづくり日本大賞を受賞したピコ秒ハイブリッドレーザーLDH-X0800

(取材・文/山口裕史)

2020年01月29日
スペクトロニクス株式会社
代表取締役社長 岡田 穣治氏
大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻 教授 森 勇介氏
事業内容/レーザー及び光学応用機器の開発・製造・販売

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