車いす転倒ゼロ目指し技術開発
「世の中から車いすの転倒事故をなくしたい」。そんな使命感にかられて、車いす用の自動安全ブレーキを開発した会社がある。
船舶用エアコン、冷却装置製造・開発のグンジ(大阪市福島区)だ。海から陸へ事業の幅を広げた理由には郡司直緒美(すおみ)社長の経験があった。祖母が車いすの転倒事故で足を骨折したことが原因で、介護が必要な生活になったのだ。「車いすを使うすべての人を守りたい」と決意し、全社をあげてブレーキの開発に着手した。
畑違いの仕事に社員の戸惑いもあったが、もともと開発型企業である同社の技術力は高かった。完成したのは「G-Guard(ジーガード)」という自動安全ブレーキだ。利用者がいすから立ち上がった瞬間、ブレーキピンが自動的に車輪のホールに入り、車いす本体が完全に停止。着席時には再びピンが引っ込むことでロックが解除される。足が不自由な利用者が勢いよく座ってしまった場合でも車いすが後退することはない。介護のプロである看護師や理学療法士からも注目されている。
直緒美氏が2代目社長に就任したのは、創業40周年を迎えた2012年。創業者で父の勝彦会長は根っからの理系で、技術屋スピリッツで周りを引っ張っていくタイプ。一方、直緒美氏は周囲のすべての人に感謝したいと語る協調性を重視する経営者だ。現在は社業と子育てを両立した上で、社会貢献にも取り組んでいる。なかでも自然保護活動に積極的だ。
兵庫県西宮市甲山周辺の自然環境を豊かにするプロジェクトに参画し、休耕田を復活させることによって生物多様性の保全に一役かっている。田植えや野菜の栽培をしながら学ぶことも多いという。「水産業では魚の管理に温度管理が必須だが、それは野菜も同じ。当社は水耕栽培用の冷却装置を受注したことがあるが、今後は農業の分野でも社会貢献できる製品を開発していきたい」。直緒美社長の探求心と行動力は今後も周囲の人を、そして社会を幸せにしていくだろう。
(大阪産業創造館 シニアプランナー 竹内心作)
▲「ジーガード」は郡司社長(右)の祖母も納得の安全性能だ
グンジ株式会社