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500年続いた印刷の歴史をたった20年で塗り変えてしまった技術にいち早く対応したモリサワの経営視点

2015.04.09

―印刷業界からの反発もあったのですね

パソコン一台でレイアウトや印刷まで行うDTPが台頭することは、当時の基盤事業である写植印刷が取って代わられることを意味しています。活版、写植時代は職人の腕が非常に大きな意味を持っており、その技術からすれば、手軽で大衆的なDTPはたしかに「おもちゃ」のようなものでした。「プロが使うものじゃない」と言われたこともあり、印刷業界からの反発は大きかったですね。

今でさえ、辞書など、文字が多く大量のページを有する出版物は電算写植時代の技術でしか対応できないものもある。それを考えると、DTPに賭けていくことに不安を感じたこともありました。しかし、画像やイラストも自由に配置できて、カラーも思いのまま。これほど便利なものが普及しないはずがないんです。信じて進むしかありませんでした。

結果的に、DTPという技術は、それまで500年以上にもわたる印刷の歴史をたった20年で塗り変えてしまった。それにいち早く対応できたことが、今のモリサワをつくっています。

―創業社長、先代社長から引き継いだものは?

祖父である創業社長と37歳まで一緒に仕事をし、モリサワイズムを継承することができました。それは「文字で貢献する」という枠組みから逸脱せず、常に新しいことに取り組んでいく姿勢。強い商品を持っているだけではだめなんです。まだ十分食べていける技術があるうちに、自ら壊して変革する。

モリサワは、それを続けることで生き残ってきた会社です。そして、その新しい取り組みを自社だけに留めておかず、得意先にも積極的に働きかけてきた。80歳を超える先代社長は今も得意先に足を運んでおり、そうした姿勢からも学ぶことが多くありました。

世界ではじめて写真植字機を発明した創業者森澤信夫氏。

世界ではじめて写真植字機を発明した創業者森澤信夫氏。

―現在、書体は1000種類以上。書体開発が加速した背景は?

1つの書体を開発するのに3~5年の歳月がかかります。開発スピードが加速した背景には「モリサワパスポート」をスタートさせたことが大きいですね。年間の定額料金でモリサワのすべてのフォントを使うことができる仕組みなのですが、毎年更新していただくには付加価値をつけていかねばならない。伝えるメッセージに合わせて最適な書体が選べるように開発を進め、今では1000種類を超えるまでになりました。

―文字だけでなく、組版の美しさも継承していますね

モリサワパスポートをスタートさせて以来、印刷業者やデザイナーといったプロだけでなく、学生さんにもいろいろな書体を使ってもらえるようになりました。しかし、どれだけ書体の選択肢が増えても、組版が美しくなければ文字の個性を活かすことはできません。自社で組版の講師を養成し、美術系の学校などに派遣して授業を行っています。印刷、デザイン含め、文字文化を未来に繋げていくことも、私たちの使命なのです。

―失敗もありましたか?

2000年台初頭に行ったクラウドフォントサービスは大失敗に終わりました。これは、文字を画像として処理することなく、指定のフォントでウェブサイト上に表示するサービス。データ容量が多くなるなどの理由でプロバイダーからの反対があり、断念したのです。

それから約10年の時を経て返り咲き、今ではスマホやPCなど、どの端末でも送り手の意図したフォントで表示できるようになりました。SEO対策にも威力を発揮しますし、ユーザーにとっても、文字の部分をコピーしてメモ帳などにペーストすることができるので使いやすい。失敗しても、温め続けることで日の目をみることもあるのです。

―今後の展開について教えて下さい

今、紙媒体の相対的なバリューが下がっています。電子メディアの持つスピードとコストの優位性に対抗できないことがその理由の一つです。しかし、紙のメディアは決してなくなりはしない。今後、いかに融合させるかが大切になってくると考えています。紙メディアと電子メディアの間を柔軟に行き来できるよう顧客をサポートしていくのも、我々の仕事です。

2014年の6月から10月にかけて、韓国と台湾、アメリカに現地法人を立ち上げました。今後は多言語展開にも積極的に注力していきたいと考えています。たとえば、日本語で書かれたフリーペーパーのデータをサーバにアップロードすると、自動翻訳エンジンと連動し、対応する外国語で情報をスマホやタブレットに配信できるアプリを開発しています。デジタルフォントもITベンダーやゲーム会社など、多言語での展開が前提の顧客も多いため、今後は、世界言語をワンストップで提供できる会社に成長していきたいと考えています。

情報伝達のみならず、デザインの役割も担う文字。同社が提供するフォントは約1000種類。

情報伝達のみならず、デザインの役割も担う文字。同社が提供するフォントは約1000種類。

代表取締役社長 森澤 彰彦氏

代表取締役社長 森澤 彰彦氏

(取材・文/北浦あかね)

株式会社モリサワ

代表取締役社長

森澤 彰彦氏

http://www.morisawa.co.jp/

事業内容/デジタルフォント(書体)の開発・販売を行うフォント事業、組版をはじめとしたソフトウェアの開発を行うソフトウェア事業、印刷機材および情報通信システムの販売を行うソリューション事業の3部門で事業を展開する。