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【ロングインタビュー】自ら選任した役員に訴え組織改革を断行。創業100余年の家業を継いだ跡取りの奮闘。

2015.01.09

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―何が一番の転機に?

当時は私と番頭の二頭体制のような状態でした。でも社内的には番頭が実質の社長で、私はその横で右行け左行けと必死に叫んでいるような感じです。現場からするとどちらの言うことを聞けばいいのか混乱するので、社長就任3年目に自分で選任した3人を役員に引き上げて、各事業部の部長にしたんです。その際、「杉本家の会社から社員みんなの会社にしたい。だから協力してほしい」と3人に訴えました。とはいえ当時私は33歳で、その3人は40代後半でしたから、最初は何を言っても響かない状況が相変わらず続きました。

自分の経営ができるようになったのは、どんぶり勘定を見直して、数字にもとづいた経営に切り替えてからです。部長3人に管理会計を勉強してもらい、数字をもとに経営を行うようになりました。すると、これまでの経営管理がいかにどんぶりだったのかがわかると同時に、私の経営方針が最終的に従業員の利益のためになっていると理解してくれるようになったんです。

具体的には原価管理や在庫管理、コスト管理などを徹底し、利益重視の経営を追求しました。利益が出ればその分を従業員に還元できますから、私がやっていることは自分たちにとってもメリットがあることなんだとわかってくれたんです。

同時に人事考課制度も見直しました。昔は給料査定の基準もなく、社長の感覚で決めていました。その体制を引き継いでいたので、仮に給料を下げるとボロクソに言われるんです。これでは従業員の志気を高められないと痛感し、人事考課制度をゼロからつくり上げました。

自分が選んだ従業員を役員にした理由は、組織経営をめざしたからです。工場の閉鎖で規模が小さくなったとはいえ、60人の従業員を抱えます。この規模になると、社長1人が現場の隅々にまで目を行き届かせることはできません。そこで私はまず役員に経営方針の説明や仕事の指示を出し、役員が各事業のメンバーにトップの言葉を伝える体制にしたのです。こうすることで各自の役割と責任が明確になり、まだまだ道半ばの状況ではありますが、ここ数年でようやく組織が機能するようになりました。経営面に関しては、会社を継いでから9期連続で黒字を達成しています。

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―新しい取り組みについて聞かせてください。

まず外部の専門家の意見を積極的に取り入れるようになりました。たとえばデザイナーに協力してもらってホームページを刷新し、自社のブランディングに活かしています。そのほか、システム開発会社と「PiLook(ピルック)」と呼ばれるシステムを共同開発しました。これは壁掛けカレンダーの綴じ部分にICタグを組み込み、スマートフォンなどの端末でタッチすると、クライアントの企業サイトなどに誘導できるというシステムです。企業カレンダーに新たな付加価値を提供できると考えています。

そのほか、ノベルティを専門に扱うブランド「カラフル」を立ち上げたり、クリエイターと組んでカレンダーのデザインにアートや遊び心を取り入れたりするなどの模索も続けています。当社は全国に代理店があるのが一番の財産なので、それを大事にしながら新たな事業にもチャレンジしていきたいと考えています。

―最後に今後の展望をお聞かせください。

今後も暦のエキスパートとして、日本の良き伝統文化である暦をつくり続けていきます。そのために会社を存在させ、地域社会に貢献し、従業員にいま以上に幸せになってもらう。まさに経営理念で掲げているのが今後も変わらず私の思いです。今の立場に感謝しています。

中小企業の後継者は負の遺産も含めたすべてを引き継ぐ難しさがあるといわれます。それでもなんで家業を継いだのか。振り返ると「暦の事業を守るという使命感」かなと思います。2つの事件が起きて会社を継いだ際、経営者としての覚悟が固まりました。今後も経営理念を達成するために本気で経営に取り組んでいくのみです。

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(取材・文/高橋武男 写真/掛川雅也)

誌面で紹介した記事はコチラ
→ 百年続く家業を引き継いだ理由は 「暦の事業」を守る使命感

株式会社 杉本カレンダー

代表取締役社長

杉本 庄吾氏

http://sgcalendar.co.jp/

名入れタイプを始め各種カレンダーの企画製造を行う。扱い点数350点、年間製造部数3000万部、シェアNO1の規模を誇る。