消防車の組立・修繕60年 車載用発電機の開発で新分野参入
現場の判断で設計図にない加工も
消防車メーカー最大手、モリタの協力工場として各種車両の車体部分の組立・修繕を60年近く行っている。鉄板の切断から曲げ、溶接、塗装までを手がけ、できあがった車体は、エンジンやトランスミッションなどが組み込まれたシャーシ(車の足回り機構)に載せられ完成車になる。
中でも同社が得意とするのが救助工作車だ。救助工作車は、火事や事故などの際に救助活動に必要な資機材を積載し、現場へ運搬することを目的とした車両である。車体にはウインチ、クレーン、照明装置などを装備するほかロープ、はしご、担架、ジャッキなどさまざまな救助資機材が積まれている。現場で迅速な作業ができるよう、設計段階ではこれらの収納スペースのレイアウトが重要視される。しかも「各自治体の消防署ごとに搭載物や収納の仕方が異なる」ため、一つひとつがオーダーメイドに近いという。
「一般の消防車は設計図通りにつくっていけばよいのですが、救助工作車は構造が複雑なこともあり設計図面にされるのは80%ほど。組立、構造、その他の細かい内容は現場で判断します。その20%部分でわれわれの強みが発揮できる」と木村氏。多くの車両を製造してきた経験による蓄積をもとに、設計図に書かれた方法よりもより収納しやすく、取り出しやすい構造を提案することもあり、顧客から信頼を得ている。
独自製品の車載発電機を開発
5年前、ある相談が持ち込まれた。土壌改良車の荷台に積んで運搬している発電機を車体下部に格納できないかという依頼だった。荷台が空けば必要な資材を搭載でき、1台の車両で現場作業が可能になる。同社にとっては初の独自製品への挑戦だったが、木村氏は迷わず開発にゴーサインを出した。「自治体のコストダウンなどで消防車市場は先細り。何かせなあかん、との思いがあった」。ここで役立ったのが修繕分野の技術だ。
修繕部門では照明機器やクレーンなどのメンテナンスも扱っており、電気や油圧に関する技術にも精通している。それまでの車載発電機はエンジンを1800回転まで上げて発電させる必要があったため騒音と燃費の面で課題を抱えていた。これを1100回転に抑えることを目標に掲げて開発をスタート。
エンジンと発電機の間に油圧システムをかませることによりクレーンで重量物を吊り上げるときなど負荷がかかる際にも安定した回転数を保ち、他の駆動系統の送電にも影響を与えない制御技術を開発した。組立、修繕の横断チーム4人がほぼ専属で、完成までに3年を要した。これにより、省スペース、大出力と併せて騒音の抑制と燃費効率の向上を実現。車載用発電機は土壌改良車での採用が進んでいるほか、救助工作車でも標準装備が進みつつある。
第1号商品の成功が「大きな自信」になり、次に自社の発案で車載用発電機とつなげて使用することのできるLED投光機も開発。第3弾となる独自製品についても試作段階まで来ているところだという。「技術を磨くと同時に、蓄積した技術をどう生かすかに事業のヒントはある」という発想で増収増益を達成している。
▲LED投光器は最長で4.8メートルの高さまで伸びる。
▲クレーンなどの駆動系統を同時に使用しても安定的に送電できるところが特長だ。
▲【技術力研鑽の極意】「現状に安住せず、新たなことに挑み続ける」(木村 好伸社長)
株式会社木村工作所
代表取締役社長
木村 好伸氏
設立/1961年 資本金/4,000万円 従業員数/46名
事業内容/一般消防車(ポンプ車)、救助工作車の車体、付属品を製造。消防車の分解整備業務のほか、フォークリフト産業車両分解整備の修繕も手がける。