【長編】日本を背負う気概で、海外で起業せよ
>>> それで計画通りに30歳で起業したわけですね。
独立のきっかけは、日本のIT業界にイノベーションを起こしたいと考えたからです。日本は世界に誇るものづくり大国である一方、ITの領域では世界に知られたソフトウェアはほとんどありません。
たとえば、ものづくりの分野では自動車や家電など世界的なブランドが数多くありますし、コンテンツ開発の分野でもアニメをはじめ、AKBなどアイドルグループ、リクルートのホットペッパーなど、優れたコンテンツがたくさんあります。ですが、ITのソフトウェアで世界的に有名なソフトをいくつあげられますか? パッと思い浮かばないですよね。
僕はこの点にビジネスチャンスを感じました。日本では能力のある人がいるのに、世界的な製品が生まれていない。日本が誇るものづくり力と組織力を活かせば、イノベーション創出のステージを日本のIT業界に整えられるのではないか、と。そこで日本の地で起業しようと決めたんです。さらに大阪は商売人の街で起業に適していると思いました。年齢的にも30歳を迎えたときだったので、2006年に同業の友人たちとマインドフリーを立ち上げたんです。
>>> 創業時の苦労は?
とにかく楽しくて仕方がなかったですね。お客さんを通して日本の企業文化や経営を学んできたところはあるかもしえません。たとえば、大阪は保守的な部分も多く、土地や会社のことをよく知っていないと商売にならない面があります。ツーといえばカーというか、すべていわなくてもわかっていますよ、というほど相手を知りつくす必要がある。だから新しいお客さんとお付き合いをするときは、その会社の理念や文化などすべて理解するようにしていました。僕はすべてのクライアントの広報担当者になれるほどですよ(笑)。
相手を知り尽くすためには、相当の時間と労力が必要です。たしかに大変ですが、時間をかけて関係性を築き、成果を出し続けることで、いまでは継続してお付き合いいただける割合がとても高くなっています。
相手を知るための努力は、自分の会社の組織づくりにも役立っています。クライアント企業を知れば知るほど独自の理念や文化、組織運営の仕方があるのがわかりました。それを自社に取り入れて組織化を図ってきたからです。
大阪で仕事をしていると、ここまで親身に相談に乗ってもらえるのか、というほど親身になって経営や事業に関するアドバイスをしてくれるお客さんがたくさんいます。とくに印象に残っているのは、起業して間もない頃に相談させていただいたある知り合いの社長さんから言われた言葉。「このコップを持って、重たいと感じたとする。それはコップが重いのではなくて、コップを持つ自分の手に力がないからや」と。つまり、経営する会社そのものが重たい存在でなく、経営者としての自分の力が足りない、ということを教えてもらったんです。
>>> 異国の地で会社を経営するのは大変では?
基本的に僕は、モチベーションは常に頂点ですから(笑)。そのために常に自分をマインドコントロールし、気持ちを高める努力をしています。当社の売上規模はまだ数億円ですが、数百億円規模の会社の社長さんと仲よくさせていただくことで、いつか自分もそうなれると自然と思い込んでいくという感じでしょうか。
ベンツに乗りたい人は、実際に試乗し続けたら本当に乗れると思うんです。実際に体感し、ベンツに乗っている自分をリアルに思い描き続ければ、そのチャンスを手に入れられるはずです。経営も同じで、プレッシャーのかかる立場になっても、いかに自分をその気にさせるか、が重要です。
あと、何か事を起こすとき、僕は自分を追い詰めるんです。そしてその追い詰め方に特徴がある。たとえば、起業するタイミングで結婚したり、会社のオフィスを引っ越すタイミングで自分の家を買ったり。仕事の転機や重要局面を迎えた際、プライベートでも大きなアクションを起こすことで、絶対にそれをしないといけない状況をつくり出し、自分を追い込むんです。いい意味でのプレッシャーを自分に与え、奮い立たせるわけです。
>>> 普通はその逆かもしれないですね。
独立したら生活が大変になるから、結婚はもう少し先にしようか、とか。でもそれはリスクに対して消極的な姿勢ですよね。僕と日本人はリスクに対する捉え方が少し違うと感じます。たとえば大学で講義をすると、学生から決まって聞かれるのは起業リスクです。起業すると、どのようなリスクがありますか、そのリスクにどう対処していますか、と。でも、学生はまだ失うものはないのに、リスクってなに? と逆に問いたい(笑)。
社会人になって独立する際も、リスクを恐れる傾向にあると思います。先ほどもいったように香港は起業に対するハードルが低いので、私と日本人の感覚を単純に比較はできないと思いますが、社会人になって起業して仮に失敗しても、業種業態にもよりますが失うのはせいぜい数百万円程度でしょう。それくらいの借金はまた稼いで返せばいいんです。
起業するとサラリーマン時代のように給料がもらえなくなるから心配、という声も聞いたことがあります。仮に来月の30万円を気にするなら、親に聞いてみるといいですよ。30万円貸して、と。それでだめなら、友人たちに聞いてみるといい。それでもだめなら、「30万円すら調達できないんだ」とあきらめて、起業は断念したほうがいいかもしれません。
一方で、数千万円も借金してマイホームを買いますよね。数十年も返済が続く住宅ローンのほうがよほどハイリスクだと思いますよ。「病気と死ぬこと以外に怖いことはない」。これは僕のお母さんの言葉です。これが起業家としての原点です。
日本の若者は海外に出るべき。すると考え方がきっと変わります。たとえば中国に行くと商売のスケールを肌で感じ、自分の悩みがいかに小さいかがわかるはずです。あるいは貧しい国に行けば、こうした生活でも人は生きていけるんだと思うものです。自分たちがこの日本の将来を背負っているという気概で、リスクを恐れず、起業の夢を果たしてほしいですね。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)
マインドフリー株式会社
代表取締役
レオン・メイ・ダニエル 氏
ウェブの戦略立案、コミュニケーションプラットフォーム開発事業を軸に、そのノウハウを活かしたソーシャルメディアマーケティング事業も展開。最先端テクノロジーを追求し、IT事業の研究開発にも力を入れる。