兄弟で受け継ぐ「大家族経営」
日本の中小企業では、家業を親子のほか兄弟で継ぐ例も少なくない。金属加工を主事業とする株式会社江原製作所(大阪市城東区)もその一つである。
代表取締役の江原光秀氏が金属製パイプの製造で創業。その後、大企業の参入により仕事が激減し、技術を生かした店舗ディスプレー製品の製造へと主事業を移したものの、この事業もほどなく衰退し始めた。
状況を打破すべく動いたのが次男の慎氏。当時は大きな決断であったレーザー加工機の導入で業態変換に着手した。
しかし経験のない設備の導入は社員に負荷がかかる。このピンチに経営基盤を強化するべく、サラリーマンだった長男の英紀氏も入社した。廃業を考えるほど先が見えなかった時代の話を父親から聞いていたこともあり、続けることが最善なのか葛藤もあったというが、再興をめざす弟の熱意をくみとったのだ。
さまざまな社内改革を進めたほか、取引先や顧客の紹介により、10社ほどだった顧客は数年で60社以上に増えていった。仕事で培われた同社への信頼があったからだ。
この信頼は光秀氏による「大家族経営」のたまものである。社員を家族同様に思い、経営が苦しい時も待遇面で社員に負担をかけることはなかった。部品から製品に至るまで、一品物の注文が増えたが、手間がかかる仕事に柔軟に対応できるのも社長の思いを社員が理解しているからこそだ。
「退けど生涯現役」。英紀氏と慎氏がそろって意識する言葉である。根っからの職人で92歳で亡くなる直前まで現場で働き続けた祖父の姿に影響を受けたという。社長交代はまだだが、今は兄弟が中心になって会社をもり立て、光秀氏は現場での仕事を増やして楽しんでいるということだから、これが江原家の血なのだろう。
父、兄弟ともに社員にも長く楽しく働いてもらいたいと願っている。同社では、社員自ら顧客を開拓し、製作・納品まで一人が一気通貫で担当することが多い。自由裁量の長所もある一方で、組織としての課題も多い。今の風土を壊さず、皆が安心して働いていける会社づくりをこれから兄弟で担っていく。
(大阪産業創造館 プランナー 荒井祐己子)
▲会社と父の想いを兄弟で受け継いでいる英紀氏(右)と慎氏(左)