人類の課題を超越し、レーザー核融合で前人未到の未来へ
クリーンで無尽蔵な「夢のエネルギー」──そんな人類史を激変させるような技術が、核融合だ。夢のエネルギーを生み出すことを『レーザー核融合商用炉』で実現することをめざしているのが、スタートアップ企業の株式会社EX-Fusion(エクスフュージョン)である。共同創設者兼CEOの松尾氏は、大阪大学とカルフォルニア大学サンディエゴ校で研究を重ねた後、日本の独立系ベンチャーキャピタルから誘いを受けて起業。「国産で無尽蔵のエネルギーを作りたい」という信念が理由の一つだった。
しかし、実用化への道程はもちろん平坦ではない。レーザー核融合の原理は、重水素と三重水素(トリチウム)を含む直径数mmの球状の物質(燃料ペレット)に対して、多方面から高出力レーザーを打ち込むことで「爆縮」させ、核融合反応を誘発する。複合的な技術が求められるが、同社の強みは創業期から培ってきた「レーザー制御」の領域だ。「浜松の自社施設で行なっている制御技術の精度を例えると、富士山のふもとから山頂に10cm以内の誤差でレーザーを当てることができます」と松尾氏は語る。
現在同社は、未来を見据えた『レーザー核融合商用炉』と共に、『レーザー制御』を用いた技術を応用するという“2軸”で経営を推進。既に同社の技術が組み込まれた、高出力のレーザー加工機のリリースを予定しているが、今後さらに受託開発で多様な案件を進め、発展させていく方針だ。高出力レーザー加工の特徴は、速度向上や省エネなどを実現する“高効率化”。さらに、既存の手法では加工が難しいとされていた、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)との相性も良い。軽量で強い剛性を持つCFRPは、電気自動車やドローンなどに使われており、「宇宙ロケット」や「空飛ぶクルマ」といった未来のテクノロジーとの親和性が高い。また、昨今問題になっている「宇宙デブリ(ゴミ)の捕捉除去」をめざすオーストラリアの会社と基本合意書を交わしており、「1,000km先にある1cmのデブリにパワーレーザーを当てる」という精密で高度な制御技術にも挑んでいる。
同社のミッションである『レーザー核融合商用炉』は「2040年の実用化」を見据える。実現すれば、人類の課題を超越する快挙だ。海水から原料を調達し、無限に使える時代になれば、莫大な電力を使用するAIも使い放題。月や火星に住んでも、エネルギーで悩むことはなく、核融合を使った宇宙ロケットは桁違いの推進力となり、45日で火星に到達するなど、夢は膨らむ。そんな「夢のエネルギー」の未来を松尾氏に聞いた。「無限大の可能性を手にした人類は、私の想像を遥かに超えた世界を創造してくれるでしょう。それを俯瞰的に、仙人のように眺めたいです」と笑顔で話してくれた。「もちろん、実現に向けて、やり抜いた後の話ですよ」と力を込めて強調する。「レーザー核融合」の実現という壮大な夢が世界を変えるまで、あと15年。EX-Fusion社の未知への挑戦は続く。
■ 2030年はこうなる ■
『レーザー核融合商用炉』の前段階の基盤である、発電技術の実証をしている。
(取材・文/仲西俊光)