食品からフィルムへ新たな挑戦、昆布が生んだ未来素材
塩昆布風発酵食品「舞昆(まいこん)」でおなじみの株式会社舞昆のこうはら。関西を中心に老舗昆布店として知られている同社だが、実は食品以外の商品も多彩に展開している。
海藻に含まれる水溶性食物繊維「アルギン酸」は昆布のねばりの元となる成分で、水分を保つ性質がある。これを粉末に加工し、壁紙を貼る際の粘着剤や、ビュッフェで提供されるだし巻き卵の離水防止剤を製品化。この他にも鋳造用の金型剥離剤や化粧品添加物、リチウムイオン電池の正極材料など、多岐にわたる異業種との共同研究を積極的に行ってきた。
同社にとって、今後の新機軸となるのが「アルギン酸フィルム」。それまで粉末だったアルギン酸をフィルム化できたことで、さらなる用途の広がりを見込んでいる。開発のきっかけは「海外産昆布との出会い」と「置きっぱなしにしたシャーレ」。北海道産昆布の漁獲量が年々減少する一方、海外では昆布の使い途はなく廃棄されている。そこで、海外産昆布での佃煮開発をスタートするも、昆布自体に旨みが足りず、製品化を断念。そのまま廃棄するのはもったいないと、アルギン酸の研究用として使うことにした。
しかし昆布から取り出した液状の成分をシャーレに入れたことを忘れ、そのまま放置すること数か月。開けてみると、オブラート状に変化していた。「折しも、プラスチックの代替となる素材が求められはじめていた時期。強度を確保してロール状の加工ができれば、ラップのような使い方も可能になるのでは?そんな仮説のもと、本格的な研究がはじまりました」と、研究開発室室長の湯浅氏。
アルギン酸の濃度や乾燥時間など条件を変えて、何度も検証。フィルムの薄さや平滑さ、強度に耐えるものができあがっても、気泡を減らすことに苦戦するなど、製品化に至るまでにはいくつものハードルが立ちはだかった。実験を繰り返し、ようやく完成したのが『アルフィル』だ。アルギン酸のみを原料としたフィルムはそのまま食べることができ、ゴミの削減にも貢献。カップ麺のかやくの袋やショートケーキの周囲に巻かれた透明フィルムなど、幅広い分野での応用が期待されている。
なかでも2025年発売予定の「フェイスパック」は従来にはない製品で、目元や口元など気になる箇所に貼り、水を加えることでフィルムが溶けて成分が肌へと浸透する。原料は美容成分「シルクフィブロイン」とアルギン酸のみ。腐敗のしやすさがネックだったシルクフィブロインだが、フィルムに取り込むことで水分の影響を受けず、長期保存も可能になった。軽くて薄く、防腐剤フリーで、剥離紙からはがしやすいよう、あえて気泡入りに仕上げていることも、試行錯誤の日々に手に入れた“ 技術”の一端だ。
2025年の大阪・関西万博で公開し、最終モニタリングした上で本格的に販売開始する。昆布を知り尽くし、究めた会社ならではのユニークな開発力。老舗の味を守りつつ、今後も新分野にチャレンジしていく。
■ 2030年はこうなる ■
小売店舗のFC展開と新製品開発で、昆布の持つ可能性をさらに追求する!
(取材・文/北浦あかね)