熟練の職人が紡ぐ、使い心地に徹底的にこだわるmade in 桃谷の野球グラブ
JR環状線桃谷駅付近の建物に書かれた「ZETT」の文字。ここは、ゼット株式会社の製造部門にあたるゼットクリエイト株式会社が製造する野球グラブの最高峰モデル「プロステイタス」がつくられている場所だ。19歳から58歳までの職人18人が在籍し、皮革生地の裁断、縫製、刻印、最終仕上げの紐通しまでを手作業で行っている。
シーズンオフになると守備の名手として知られる埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手や福岡ソフトバンクホークスの今宮健太選手も、自身のグラブの調整にやってくる。
100年を超える歴史を持ち、1977年から自社でグラブ製造を行ってきたZETT。だが長年、硬式グラブ市場でのシェアは10%程度にとどまっていた。「上に追いつき追い越すには、使いやすさを徹底的に追求するしかない」と、ユーザーと接するスポーツ用品店オーナーの声を徹底的にヒアリングした。出てきたのは「すぐに型崩れしてしまう」という不満。そこで芯材を高級な羊毛に変えた。また、人差し指と中指の間の間隔をあけて紐を結ぶことで捕球しやすくした。「黒い色に深さを出したい」と姫路のタンナーに相談しアドバイスを受け、高級感のある黒が実現した。そうして1997年に誕生したのが「プロステイタス」だ。
価格は3万9千円。「そんな高いグラブが売れるわけない」と不安がる営業の声をよそにスポーツ用品店から生産しきれないほどの注文が舞い込んだ。数年後、生産が追い付かず海外工場に委託し、量産したところ、たちどころにブランド価値が落ちた。「以来、当社のグラブの中でもプロステイタスだけは国内生産にこだわり続けている」と榎本氏は語る。
その後も常に市場の声に耳を傾け、「重い」という声が増えた時には、人差し指・中指・薬指の部分は羊毛から軽量のポリエステルに変え、ひもの染料を抜いてまで軽さを追求。そうしたたゆまぬ改善努力が実を結び、硬式野球グラブ市場のシェアは高まっている。ここ7、8年「プロステイタス」の売れ行きは毎年伸び続けている。
職人肌のグラブ作りからZETTのグラブには「堅い、まじめ」というイメージが付きまとう。「品質、性能という本質は守りながらも、加えていきたいのが格好良さ」と榎本氏。プロ選手の対応をする中、新しいWEB の開発やSNS効果も手伝って新しいファンも獲得しつつある。18人の職人集団によって支えられるMade in桃谷が野球の魅力を支えている。
(取材・文/山口裕史)