時代に則して、新たな視点と気づきを与えてくれる場所
大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする
社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。
【 vol.23 】株式会社新城製作所~時代に則して、新たな視点と気づきを与えてくれる場所~
株式会社新城製作所の代表である新城氏は、同社の4代目だ。学生時代は家業を継ぐことは考えておらず、大学卒業後は電設資材商社に入社した。ところが28歳の時、自動車業界ではいわゆる「ゴーンショック」が起き、同業界を得意先とする同社もその余波で社内変革を迫られた。任せられる人材が社内にいない状況下、当時社長だった父が白羽の矢を立てたのは新城氏だった。
「父が声をかけるということはよっぽどだ」と二つ返事で同社に入社した新城氏が早速取り組んだことは2つある工場の合理化だった。拠点が分かれていたため非効率になっていた工程を1つの工場へ集中させ、片方の工場には別の機能を置いて業務効率を向上させた。成果を残したことで一旦退社するも、やはり家業が気にかかって復帰し、アメリカで同社製品を取り扱う販売代理店へ出向、3年間システムメンテナンスと販売業務を担当した。日々刺激的で知識は増え、考え方にも厚みが出た。
帰国後はベトナム現地法人の立ち上げを任されたが、ノウハウは無く従業員も10数名からのスタート。現地インフラの貧弱さゆえに、突然停電して工場が操業できない時もあった。だがベトナムで多くの人と交流し、知識や人脈を広げながらピンチを乗り越え、帰国時には従業員は40名超となっていた。2014年に日本へ戻り、常務を経て2016年に社長へと就任。当時は前社長も在籍しており、新城氏が本当の意味で社長の目線になったのは2018年頃だという。入社して約18年経っていたが、改めて社長の視点で見ると自社は新しいことに取り組めていないことが課題だと気づいた。その視点は海外駐在時代に他社と情報交換しながら培ったものだ。
まず改革に取り掛かったのは社内業務の効率化。特にメールでのやりとりが非効率だと感じていたが、社内ではまだ課題と感じる従業員がいなかった。何かヒントはないかと調べる新城氏の目に留まったのがビジネスチャットだった。当時はまだ情報が乏しかったことから、思い切って東京の展示会を視察することに。実際に行ってみると目的の商品だけではなく、他社の製品の情報についても話を直接聞くことができるなど想定外の収穫があった。
もとより「自分の目で見て腑に落ちない物は嫌だ」という新城氏は、これ以降も分野を問わず多くの展示会に足を運んだ。製品自体の情報やその時々のトレンドを知ることができ、業務効率化のアイデアも膨らんでいった。2018年は8回、2019年も8回訪れ、コロナ禍により開催が無い期間を挟んで2022年の3月に久しぶりに訪れた。今や展示会は新城氏にとって近い将来の自社を描くために必要な新しい情報と、気づきを与える相棒的な立ち位置にある。展示会では訪れるブースを予め決めず、自社の課題に引っかかる商材を探すために全体を回ることを心掛けている。
そして社内業務を改善させる際の信条はいきなり大きく改革するのではなく、まずは小さくスタートすることだ。もちろん、社長自身がツールを使って効果を確かめることも大切にしている。新城氏の取り組みは次第に社内へも影響を与え、会社全体の処理スピードが上がった上にツールの活用提案をする従業員も増えてきた。
今後の目標は、効率化をさらに進めて「残業ゼロでもしっかり利益を出す会社」づくりだ。その目標の根底にあるのは「従業員には仕事以外の生活を充実させてほしい」という考えである。その実現に向けて、新城氏はこれからもヒントを探し、一歩一歩取り組み続ける。
(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)