森の中に生まれたアスレチック“だけじゃない”空間
大阪府の北端に位置する能勢町。かつてこの地で大阪府立総合青少年野外活動センターとして親しまれていた場所がいま、全長500mにおよぶ日本最大級の池越えジップラインを有するアドベンチャーパークとして生まれ変わっている。「ボウケンノモリNOSE」だ。
同パークを運営するのは株式会社冒険の森。2008年に奈良県山添村でオープンした「ボウケンノモリYAMAZOE」を皮切りに、現在はFCも含めて9つの施設を全国に展開する。「ボウケンノモリ」は、広い意味では屋外に設置されたアスレチックと言える。2008年の開業時にも、同様の施設は既に各地に存在していた。そんな中で代表取締役の伴戸氏は、当時ヨーロッパで人気を得ていたアドベンチャーパークに注目した。
「ヨーロッパ型アドベンチャーパークの特徴は、森林をそのまま活かすことです。そのうえで、大人も楽しむことができるチャレンジングなアトラクションで構成されています。事業予定地となる広大な山林との相性などがぴったりでした」。
狙いは見事に当たり、開業初年度から9,200人が来場する人気施設に。誰も足を運ばなかった山に、笑顔があふれるようになった。こうなると、後発組が次々と市場に参入するのが世の常だ。しかし、ここからが同社の真価が発揮される場面だった。
実は伴戸氏は、開業に向けて山の整備や遊具の設置など、すべての準備を独力で行っていた。要した期間は実に6年。ここで得た経験が、後発組にはない強みとなった。
「同様のアドベンチャーパークを開設する場合、『ビルダー』と呼ばれる設計・施工会社を海外から招き、遊具も輸入することが多いです。当然、費用や時間がかかります。対する当社は、設計から施工まですべて自社なので、価格と時間で優位性があります。また、開業予定地の土地形状や樹木の育成具合などを見ながら、その土地に応じた施設計画を立てられるのも当社ならではです」。
この強みにより同社は現在、「山林を有効活用したい」という自治体や企業、個人からの相談に応じ、アドベンチャーパークを核にした課題解決へと事業領域を広げている。また、施設のオフシーズンとなる冬期を中心として、職員が地域の山林の維持管理に携わる仕組みを構築。林業とサービス業を融合させながら地域産業の活性化や山林の荒廃を防ぐ取り組みにまで発展させている。
「山林を維持することは防災や減災に役立ちますし、二酸化炭素の吸収による温暖化抑制にもつながります。お客様には、山が持つそういった働きをお話しする機会も設けています」。
海外の事例をいち早く導入したことに始まり、山林の有効活用や環境問題へのアプローチなど、常に時代の先を見つめている伴戸氏。アスレチックのワクワク・ドキドキを根底で支える自然や社会に対する思いが、同社を特別な存在にしているといえるだろう。
(取材・文/松本守永 写真/福永浩二)