商品開発/新事業

無力感を原動力に、農園に貢献できるアパレル化に挑む

2022.01.26

「木に実るダウン」という言葉の通り、インドネシア原産の樹木「カポック」から穫れる綿を、水鳥の羽に代わる素材に加工し、シャツやコートなどの商品としてアパレル化した。

深井氏は旭化成勤務時代にカポックの存在を知ったが、その活用を思い立ったのは家業の双葉商事に戻ってからのこと。同社は通販カタログ向けボトムのOEMメーカーとして業界では知られた存在だ。

自社ブランド商品を手がければ、さらに密度の濃いOEM生産ができると考え、自分のビジネス人生を賭けられる素材として着目したのがカポックだった。

カポックの綿は空洞構造を持つため、従来のコットンの1/8の軽さでありながら、 効率よく湿気を吸い、発熱する。だが、その軽さと短さゆえ繊維化することが難しかった。

そこで、不織布として加工しシートで挟むことにより、これを量産化するプロセスも築き上げた。できた商品を直販することにより、農園から小売りまでを貫く鎖が完成した。

「下流工程にしわ寄せがいく縦の下請け構造から脱し、農園から小売りまでサプライチェーンにかかわるすべての人が幸せになる横の構造を作りたかった」。深井氏のチャレンジはSCMにまで及び、「Farm to Fashion」を標榜する。

代表取締役 深井喜翔氏

当初は家業の一部門として事業を育てるつもりだったが、2年前に自身が100%出資するカポックジャパンを創業した。「若い時にできる失敗こそが次の成長につながる。だが、失敗をうやむやにしないためには痛みを自分で感じる必要があった」とその決断に至る思いを語る。

カポックのアパレル化への思いは多くの消費者の共感を得つつあるが「社会的意義を持つ事業だからと言ってそこに甘んじていては着続けてもらえない」と、事業戦略における優先度を「機能」「デザイン」「サステナブル」の順で位置付ける。SCMすべてに目を行き渡らせるため、各分野のスペシャリスト18人を副業人材として協力を得る体制を築いた。今年は、現在3人の本社スタッフを増やし、SCM全体を統括する体制を整えていこうとしている。

創業来走り続けてきた深井氏だが「ハードワークの割に農園に貢献できているのか」と満たされない心情を吐露する。先日、大学時代から憧れていた社会起業家でマザーハウス副社長の山崎大祐氏と話す機会があり、「無力感が人を強くする」の言葉に力を得た。

広大な敷地のカポック農園

コロナ禍が落ち着けば、今年はスタッフ全員をインドネシアのカポック農園に連れて行こうと考えている。「広大な農園のほんのわずかにしか貢献できていないことを目の当たりにすれば、それが無限の原動力になる」。

果てしない道のりへの確かな一歩を重ねながら、めざす未来を手繰り寄せる挑戦が続く。

代表取締役 深井喜翔氏

(取材・文/山口裕史)

KAPOK JAPAN株式会社

代表取締役

深井 喜翔氏

https://kapok-knot.com

事業内容/カポックを使用したアパレルの製造・販売