スタッフ連載

逆境に負けず、社長のアイデアをともに形にした相棒

2021.07.15

大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする

社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。
 

【 vol.17 】株式会社平井製作所
~逆境に負けず、社長のアイデアをともに形にした相棒~

 

 
今回紹介する株式会社平井製作所は、金属プレス加工を主業とする一方で、2021年1月に新規事業としてポン酢を製造販売する食品事業部を立ち上げた。

創業は1934年で、現社長の平井隆之氏は5代目となる。長男であるため、いつかは会社を継がないといけないという気持ちはあった平井氏だが、大学では水産学科に進んだ。学卒後は金型の製作会社に就職、その後は環境調査会社での仕事にも携わった。

25歳の時に同社に入社。生物系の世界から金属加工という物理の世界への転身だったが、工夫しながら効率化や業務改善していくことが好きであったため、仕事は楽しかった。

 
しかし、平井氏が入社した当時の同社は上意下達の組織だった。
会社の活性化のためには現場から意見が出る組織にしないといけない、その想いを胸にしながら従業員との会話を増やし、日々コミュニケーションを積極的に取り続けた。

慎重派だった先代や先々代と意見がぶつかることもあったが、少しずつ社内が変わり、やがて従業員から意見が出るようになっていった。現場からの意見は、今でも治具や工程改善にどんどん活かされている。

 
そして2014年に社長就任。当時の主力業務の一つは、大手電機メーカーの冷蔵庫に使われるトレーやカバーのプレス加工だった。会社の強みである提案力と技術力を活かして順調に実績を積み重ねていたが、2019年にメーカーが冷蔵庫を海外生産に切り替えた。

その前から他の業種へも取引を広げて軸足を移していたが、主力業務の一つが減少することは平井氏に大きな決断をさせるキッカケとなった。その決断は前述した食品事業部の立ち上げである。

かねてから釣りが好きな平井氏は、自分が釣り上げた白身魚に合うポン酢を探し求め、ついには自作するほどであった。その高いクオリティから「いつかは商品化を」と考えていたが、2018年に“相棒”である井本明広氏に声をかけたことで夢から事業へと繋がった。

 
井本氏は業務部次長として生産管理に従事しているが、実直な仕事ぶりに加えて、会議体制を単なる報告会から情報共有のための重要な位置づけに変えるなど、元々平井氏が一目置く存在だった。

井本氏が大切にしている自身の役割は、平井氏のアイデアをどうすれば具体化できるか考え、現場の従業員へは社長の考えをわかりやすくかみ砕いて伝えるつなぎ役であること。

金属加工業と一見全く異なるポン酢の製造という業務。手探りの部分は多分にあったが、井本氏は平井氏の熱意を誰よりも理解し、かつての購買部門での知見を活かして必要な設備の調達や建屋の建設に携わった。2人で得意先開拓にも力を入れてきた。

 
そして2021年1月から本格的にポン酢「八尾の代々」を発売開始。金属プレス加工会社がポン酢をつくるという意外性だけにとどまらず、品質の高さで顧客数を伸ばしている。

また、食品に関わる事業であることから、食品機械の案件に携わるなど主業への効果も出始めた。
折しもコロナ禍の中でスタートした新規事業であるが、社内外の価値観を変える絶好のチャンスだ。これからも2人で力を合わせて工夫をしながら、老舗金属加工業の常識を変えるチャレンジは続く。

 

代表取締役 平井 隆之氏(右)、業務部次長 井本 明広氏(左)

 
(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)

株式会社平井製作所

代表取締役 平井 隆之氏
業務部次長 井本 明広氏

https://hiraiworks.com/

事業内容/金属プレス加工、食品製造販売