守りながら攻める――コロナ禍での新店舗オープン

 
大阪心斎橋のフレンチレストラン『リュミエール』。ミシュランガイドで12年連続して星を獲得する有名店である。代表の唐渡氏はシェフとして第一線に立ちながら、リュミエールグループ9店舗を経営するオーナーシェフ。彼が生み出した「野菜の美食」は、ご馳走と健康を両立させた独自のコンセプトとビジュアル映えする美しさからメディアの取材依頼が引きも切らない。

そんなリュミエールもコロナ禍ではダメージを受けた。緊急事態宣言下ではグループ店舗の半分以上が休業。営業時間もアルコール提供も規制され、売上げが落ち込んだ。しかし、そんな中、唐渡氏は9つめの新店舗『ビストロカラト』を心斎橋PARCO内にオープン。数ある施設内飲食店の中で坪単価売上トップの業績を収めている。

 

代表取締役 唐渡泰氏

 
多くの飲食店が閉店に追い込まれる中、なぜ唐渡氏は果敢に攻めるのか。彼には肝に銘じていることがある。「ある統計では10年続く商売は約6%だと言われている。100のうち94の会社は10年後には消えてなくなる。普通にやっているだけでは生き残れない」。唯一、変わり続けることが存在するための策だと感じている。

今回のコロナ禍初期に唐渡氏はあることを決意した。それは「守りながら攻める」こと。「こんな時期だからこそ社員の雇用をひとりも切ることなく新しいことに挑戦しよう」、そう決めたという。

 

 
まず、収支の計算。2020年4月、一回目の緊急事態宣言が発令される10日前、唐渡氏は自発的に店を閉めると決めた。いち早く動くことで収益を圧迫する固定費を最小限に抑える策を練り、社員と顧客の安全を第一に確保した。

そして緻密なコロナ禍事業再計画。リュミエールグループの社員比率は全従業員の約3割。彼らの給料を守り抜くための売上げはいくら必要か、休業、時短営業、アルコール規制などを見越して最低ラインの収益を何度もシミュレーションした。「そうすると最悪の場合でもなんとかやっていけるラインが見える」と唐渡氏。

さらに積極的な情報発信。全社員を営業可能な店舗に集め、コロナ禍だからこそできることにトライした。オンラインでのメニュー提供、テイクアウトメニューの開発、医療従事者へのお弁当提供など。その様子を発信することで「リュミエールは動いている」と印象づけた。その延長にあるのが新規事業『ビストロカラト』だ。

 

 
八方ふさがりに見える事態においてもやれることはある。大切なのは実行に移すかどうか。もともとリュミエールには「今日の最高は明日の最低」という行動指針がある。「現状維持は衰退。小さなことでも積み重ねていけば長い年月の中で成長していく。今日に満足せず、自分で考えた小さな工夫を実行に移すのが私たちのスタンスです」。

開業から15年。世界が揺らぐコロナ禍でも歩み続けることが出来るのは、日々蓄えてきた力があるからこそ。企業の体質は一朝一夕には強くならない。
とはいえ、果敢な姿勢の裏側には繊細な一面もある。「9店舗に1日約800名のお客様が来てくださるんですが、いまだに朝ひとりめのお客様の顔を見るとほっとする」。
開業当初、来店客数ゼロの日が続いたことを唐渡氏は忘れていない。「お客様が来てくださるのは当たり前のことではないですから」。

 

 
(取材・文/荒木さと子 写真/三原李恵)

2021年07月10日
株式会社ケイクール
代表取締役  
唐渡 泰氏
事業内容/フレンチレストラン、カフェ、ブーランジェリーの経営、紅茶の輸入販売

今月の町工場で働くオトコマエ

ゲンバ男子

地域から選ぶ

情報誌Bplatzpressから選ぶ

創業年から選ぶ

業種から選ぶ

ライターから選ぶ

テーマから選ぶ