研修生のひと言で取り戻した「家族経営」
「この会社、ぜったい潰れます。もっと社員同士の絆を持ってください」。
あと半年で帰国するベトナム人研修生3名と食事をした際、三島社長は彼らからそう言われて「人生が変わった」と述懐する。
20代後半に家業に入り、2008年に創業者の父から会社を継いだ。当時は社長と社員の関係は希薄で、研修生は〝労働力〟でしかなかった。社内の風通しは悪く、社員同士が本音を語り合える場もなかった。
家族を大切にする儒教国のベトナムから来日している研修生たちだからこそ、血の通っていない組織に違和感を覚えたのだ。
「この会社、おかしい!」
そう感じていた人がもう一人いる。社長の妻で取締役のあゆみさんだ。2年前に入社した際、「事務所にいるのに直接言わず、なぜか付箋でやりとりする。そんな関係が苦痛でした」と振り返る。
そうした中でもあゆみさんは研修生に目をかけて彼らを食事に誘ったところ、社長の横で冒頭の言葉を聞いて涙を流した。「ベトナムのご家族を思うと申し訳なくて」。
彼らの言葉、そして妻の姿に自身の未熟さを痛感した三島社長は「ちゃんとせなあかん」とすぐさま、さまざまな研修に参加して自己研鑽を始める。
同時に、あゆみさんも社内を楽しい環境に変えようと試行錯誤を始めた。
誕生日会もその一つ。ある社員がビニール袋に缶コーヒー3缶を入れて毎日持参しているのを見て、「ふとん圧縮袋に大量の缶コーヒーを詰めて誕生日にプレゼントしたんです(笑)」。思わぬサプライズに社員は大泣き。以降、誕生日会は恒例行事になった。
組織の結束を強めるきっかけとなったのが「弁当」と「みしま食堂」だ。あゆみさんのお母さんお手製のお弁当を研修生を含む単身者に週に3度、差し入れて会議室で一緒に食べる。月に1~2度ひらかれる「みしま食堂」では、三島社長とあゆみさんが前日夜から料理を仕込んで全社員に振る舞う。
「同じ釜の飯を食べることで家族になれたら」。そんな両氏の思いで食事を囲み、組織が変わり始めた。社員の立花さんは「社員同士で何でも言い合える機会が増えてきた」という。工場長の三宅さんは「社長が変わり、あゆみさんのおかげで会社の雰囲気が良くなりました」と変化を感じ取っている。
いまや三島社長にとって社員たちは家族同然の存在。「あいつらを幸せにせなあかん。面倒みるのはしんどいけど、ほっとかれへん」。研修生たちの言葉で日本の良き「家族経営」を取り戻し、絆が深まりつつある。
▲代表取締役 三島 圭四郎氏(右)、あゆみ氏(左)
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)