地域食材水なすでブランド確立 老舗漬物屋の新しい販路はワインショップ
漬物専門店「旬茄(しゅんか)」を4店舗展開する谷野は、泉州地域で江戸時代から栽培されている地域食材「水なす」を中心に扱う。「泉州の水なすは果皮がやわらかく、絞ると水がしたたり落ちるほど水分を含んで美味しい」と語るのは谷野専務。生産農家が500軒以上あるなか、独自の基準で高品質の水なすを厳選して仕入れ、自社工場で漬け上げて全国に届けている。
この10年で食の安全・安心に対する関心が高まり、地方食材や産直を志向する傾向が続いている。これを背景に食を通じた地域活性化の機運が盛り上がり、2006年には地域ブランドの商標化が認められるなど官民を挙げた取り組みも進む。水なすという地域商材を持つ谷野は、国産回帰の動きが広がるなか、すでに存在感を発揮しているといえるだろう。
地域商材としての水なすのブランド力は確立しているが、季節商品のために産地直送で発送するしかなく、販路を全国に広げるのが課題だった。「そこで全国展開をめざし、若い人にも漬物を召し上がっていただけるよう国産素材でピクルスを開発したんです」。
最大の特長は乳酸菌で自然発酵させる点。自社工場で最適な発酵環境を整え、商品化まで8ヶ月の期間を要した。なぜ手間のかかる自然発酵を選んだのか。「それは他社商品との差別化のため」。ピクルスは酢に漬けるだけで簡単に仕上がる反面、酸味が強く出る。手間はかかるが自然発酵にすれば、ほんのりとまろやかな酸味に仕上がるのだ。
1年半前に商品化した後、まず従来の漬物コーナーに展開したが、「若い人の視線に入らずまったく売れなかった」。そこで「パンとワインにあうぴくるす」という商品名を付け、戦略的に売場を変更。さらに一から販路開拓を行い、ベーカリーショップやチーズ専門店、ワインショップの食材コーナーなどに広げた結果、取扱店が全国に70店舗まで増えた。「漬物の老舗が自然発酵でつくったピクルス」というのが珍しく、ワインバーなどでも重宝がられているという。「今後は商品点数を増やして、さらなる拡販をめざす」と意気込む。
株式会社谷野(旬茄)
専務取締役
谷野一朗 氏
設立/1964年 資本金/1,000万円 従業員数/30名
事業内容/漬物の卸業として設立し、現在は大阪に漬物専門店「旬茄(しゅんか)」を4店舗展開する。泉州名物の水なすをはじめ旬の素材を扱うほか、大阪独自の「なにわの伝統野菜」(田辺だいこん・天王寺かぶら・毛馬きゅうり)の販売も行う。